MINATAと学ぶオートメーション #37:インバータ — 速度は変えられるが、すべてを置き換えるわけではない
インバータ:速度は変えられるが、すべてを置き換えるわけではない
インバータは入ってきた交流を、制御された電圧と周波数に変える。そうすることで、モーターを工程が求める速度で回せる。ソフトスタート、ポンプやファンの流量調整、コンベヤの速度合わせ、そして条件が合えば実際の省エネにもつながる。ただし「モーターを強くするボタン」ではない。負荷の見立て、パラメータ、止め方のどれかを間違えれば、置き換えた直入れ始動より安全でも長持ちでもなくなる。
エネルギーの流れ
インバータは入力の交流を整流して直流母線をつくり、それを自分で決めた周波数と電圧の交流に戻す。モーターは、ドライブの制御方式と負荷の性質にしたがって速くも遅くもなる。PLCやHMIからは運転・停止・回転方向・速度指令を送り、状態と異常コードを接点か通信で読み取る。
選定の前にそろえる資料
- モーターの銘板:電圧、電流、出力、周波数、回転速度、結線。
- 負荷の種類:ファンや渦巻ポンプのような可変トルクか、コンベヤや押出機のようなほぼ一定トルクか。
- 運転の周期、加速と減速、慣性、制動の要否。
- 設置環境、温度、盤、モーターケーブルの長さ、そして雑音に関する要求。
- リスクアセスメントが求める安全機能と停止機能。
書類の上で出力が足りていても、加速の回数が多い、慣性が大きい、低速でトルクが要る、といった条件では容量が足りなくなる。理由もなく大きく選ぶのも答えではない。費用が増えるうえ、保護協調も取りにくくなる。
理解しておきたい三つのパラメータ群
- モーター側: 銘板の値と制御方式が、実際に付いているモーターと合っていること。
- 工程側: 速度の上下限、加減速の時間、回転方向、速度指令の出どころ。
- 保護と監視: 電流制限、無負荷や過負荷の扱い、自動再始動、異常の通知、通信。
同じ型式のドライブだからといって、ある機械のパラメータ一式を別の機械へそのまま写さないこと。パラメータは技術資料の一部であり、控えを取り、版を管理する対象である。
可変トルクと一定トルク
| 負荷の種類 | 例 | トルクの性質 | 選定での意味 |
|---|
| 可変トルク | ファン、渦巻ポンプ | 速度の二乗で増える | 減速時の省エネが大きい。負荷は軽い |
| ほぼ一定トルク | コンベヤ、押出機、巻取軸 | 速度が変わってもほぼ一定 | 低速でも十分なトルクが要る |
| 一定出力 | 巻取機、主軸 | 速度が上がると下がる | 弱め界磁の領域と冷却を考える |
ポンプとファンの相似則
渦巻ポンプやファンでは、速度を下げると流量は一乗、圧力は二乗、動力は三乗で変わる。速度を80%にすれば、流量はおよそ80%、圧力はおよそ64%、動力はおよそ51%になる。この三乗が、部分負荷で回り続けるポンプやファンでインバータの省エネがはっきり出る理由であり、ドライブを入れたあとに弁を絞って流量を減らすべきでない理由でもある。
長いモーターケーブルと雑音
ドライブとモーターの間のケーブルが長いと、開閉の波形が反射してモーター端子での電圧の峰が高くなり、巻線の絶縁に負担がかかる。取扱説明書の推奨長さを超えるときは、出力リアクトルやdU/dtフィルタを検討する。モーターケーブルは必ずシールド付きを使い、保護接地へ正しく落とすこと。そうしなければ、開閉の雑音が近くを走るアナログ信号やエンコーダ信号に入り込む。
参考になる現場の一場面
コンベヤでは、PLCが運転指令と速度指令を送り、ドライブは準備完了・運転中・異常を返し、多くの場合は実速度も返す。HMIには、指令と実際の帰り値とドライブの異常コードを、別々の情報として表示したい。三つの食い違いこそが、不具合の在りかを運転者に教えてくれるからだ。非常停止と人の保護を、PLCの運転ビット一つに委ねてはならない。安全の構成は、ドライブの資料とリスクアセスメントに従う。
インバータのチェックリスト
- [ ] モーターの銘板と負荷の性質を、どちらも読んだ。
- [ ] モーターの結線、保護接地、シールド線、盤の条件がメーカーの資料と合っている。
- [ ] 機構と慣性を把握したうえで、上下限と加減速を決めた。
- [ ] 状態と異常の本当の帰り値が、PLCとHMIに届いている。
- [ ] 試運転の前と後で、パラメータの控えを取った。
原理が分かると、ドライブと正しく話せるようになる。次の #38 では、その試運転の手順そのものを、管理された形で進める話に入る。
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