穴基準方式で考えるはめあい公差
機械設計 #29:はめあい公差 — 穴基準方式をどう使うか
同じ基準寸法20 mmの部品同士でも、ゆるく入る場合、ちょうどよく入る場合、手では組み付けられない場合があります。違いを生むのは基準寸法の数字ではなく、穴と軸の公差域です。
この記事では、はめあい記号の読み方、必要な機能からはめあいを選ぶ考え方、図面に公差を記入する前に確認すべき点を、設計・加工の実務目線で説明します。個別寸法の数値を決める際は、必ず適用する規格の最新版を確認してください。
1. はめあい公差は何を解決するのか
機械設計における穴と軸の組合せには、主に次の三つの役割があります。
- ブッシュ内で軸が回転するような相対運動を可能にする
- 精度よく位置決めしながら、分解も可能にする
- 荷重を伝えたり、運転中のずれを防いだりするために固定する
穴と軸に同じ基準寸法だけを記入しても、加工現場には許容限界が伝わりません。加工ばらつき、温度、表面処理、測定方法による小さな差が、組立後の機能を大きく変えることがあります。
はめあい公差は、穴と軸それぞれに許容される公差域を定めます。二つの公差域の関係により、組立後のすきま、またはしめしろが決まります。
2. 三つの基本的なはめあい
2.1 すきまばめ
限界寸法のどの組合せでも、穴が軸より大きくなります。そのため、組立後には必ずすきまが残ります。
次のような用途に適しています。
- 回転または摺動が必要
- 組立・分解を短時間で行いたい
- 潤滑油のための空間や熱膨張分を確保したい
- 小さな芯ずれを吸収したい
すきまが小さすぎると、温度上昇や表面処理の追加によって焼付きが起こることがあります。大きすぎると、振動、騒音、位置精度の低下につながります。
2.2 中間ばめ
実際に加工された寸法の組合せにより、ごく小さなすきまになる場合と、軽いしまりばめになる場合があります。
次のような用途に適しています。
- すきまばめより高い位置決め精度が必要
- 一般的な工具で分解できるようにしたい
- はめあい面だけで大きなトルクを伝達しない
最も誤解されやすい領域です。設計者は、組立方法、想定する抜去力、ねじ・キー・止め輪などの補助固定方法を明確にする必要があります。
2.3 しまりばめ
限界寸法のどの組合せでも、軸が穴より大きくなります。組立には圧入、外側部品の加熱、または内側部品の冷却が必要です。
次のような用途に適しています。
- はめあい面を通じてトルクまたは軸方向力を伝える
- 運転中に部品を移動させたくない
- 分解頻度が低い、または基本的に分解しない
しめしろは経験だけで決めてはいけません。周方向応力、変形、材料、肉厚、表面性状、組立温度、圧入力の管理能力を確認します。
3. H7/g6のような記号の読み方
ISOの寸法公差・はめあい方式では、次のルールを使います。
- 大文字は穴の公差域
- 小文字は軸の公差域
- 文字は基準寸法線に対する公差域の位置
- 数字はIT公差等級で、一般に数字が小さいほど公差域が狭い
たとえばH7/g6は、穴のH7公差域と軸のg6公差域を組み合わせたものです。ただし、この記号だけではマイクロメートル単位の寸法差は分かりません。基準寸法と、適用する規格表が必要です。
一つの記号を覚えて、すべての直径に使うのはよくある誤りです。限界偏差は寸法区分によって変わるため、図面と検査計画の両方で正しい区分を使わなければなりません。
4. 穴基準方式が広く使われる理由
穴基準方式では、穴のH公差域を基準として維持し、主に軸の公差域を変えることではめあいの種類を調整します。
この方式が有利になりやすい理由は次のとおりです。
- ドリル、ボーリング工具、リーマなどの標準的な穴加工工具を、はめあいごとに連続して変えるのは難しい
- 軸寸法は旋削や研削で調整しやすい
- 工具管理と穴の検査を簡素化しやすい
一方、標準材、既製のタイロッド、軸受、市販部品などによって軸寸法が固定される場合は、軸基準方式が有効です。この場合は軸を基準に保ち、穴の公差域を変えます。
実務上の原則は、加工と検査を最も安定させる方式を選ぶことです。旧図面の慣習だけで決めないようにします。
5. はめあいを選ぶ手順
手順1:機能を明確にする
回転、摺動、位置決め、荷重伝達のどれが必要かを確認します。高精度に位置決めしながら保守のために分解する箇所と、永久圧入する箇所では要求が異なります。
手順2:最悪条件を確認する
公差の両端を確認します。
- 最小すきまで焼付きを防げるか
- 最大すきまで精度が失われないか
- 最大しめしろで部品が割れたり変形したりしないか
- 最小しめしろで荷重を保持できるか
手順3:実際の使用条件を見る
- 組立時と運転時で温度が異なるか
- 加工後にめっき、アルマイト、塗装、その他の表面処理を行うか
- ほこり、油、クリーン環境、腐食環境の影響があるか
- サプライヤーが選定した公差等級を安定して加工・測定できるか
手順4:穴基準方式または軸基準方式を選ぶ
穴を標準工具で加工し、軸側を調整できる場合は穴基準方式を優先します。標準部品や入手可能な材料によって軸寸法が制約される場合は軸基準方式を使います。
手順5:現行規格を確認する
公差および限界偏差の表では、正しい寸法区分を参照します。版が分からない古い表やインターネット上の画像から数値をコピーしないでください。
手順6:加工・検査方法を確認する
適切な測定方法がない厳しい公差は、品質ではなく争いを生みます。図面発行前に次の点を合意します。
- 最終加工工程
- 測定器
- 基準温度
- ばりと表面処理の扱い
- 合否判定基準
6. よくある設計ミス
できるだけ厳しい公差を選ぶ
厳しい公差は、工程数、測定時間、不良率、コストを増やします。機能に必要な範囲だけを厳しくします。
表面処理を考慮しない
軸の皮膜は直径を増やし、穴内面の皮膜は有効径を小さくします。図面寸法が処理前か処理後かを明確にします。
薄肉部品にしまりばめを使う
圧入力と周方向応力により、穴が変形したり部品が割れたりすることがあります。材料、肉厚、組立方法を確認します。
温度を無視する
線膨張係数が異なる材料の組合せでは、すきまが大きく変わることがあります。高温で運転する組立品は、室温だけでなく運転温度でも確認します。
記号だけを書き、測定方法を考えない
規格どおりの記号でも、製造性が自動的に保証されるわけではありません。真円度、テーパ、表面性状により、一点で測った直径とは異なるはめあい挙動になることがあります。
7. 図面発行前チェックリスト
- はめあいには運動、位置決め、荷重伝達のどれが必要か
- 最小・最大のすきま、またはしめしろを確認したか
- 穴基準・軸基準の選択は加工工程に合っているか
- 加工後に表面処理や熱処理があるか
- 運転温度によって機能が変わらないか
- 圧入に耐えられる肉厚と剛性があるか
- 真円度、円筒度、軸合わせ、表面性状の要求も必要か
- 加工現場に適切な測定器があるか
- 保守のために分解する必要があるか
- 正しい規格版と寸法区分を確認したか
まとめ
はめあい公差は、旧図面から記号をコピーする作業ではありません。二つの部品間の機能を決める設計判断であり、加工、検査、組立、保守にも影響します。
機能から始め、両端の限界状態を確認し、生産能力に合う基準方式を選び、その後で規格表を参照します。図面が「どう組み立てるか」と「どう検査するか」の両方に答えられるとき、公差は図面を精密に見せるだけでなく、実際の不具合を減らします。
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