機械設計 #03:機械設計におけるモーターの選定 – パート1
本記事は、機械設計でよく使われるモーターの基礎知識と選定の考え方を、代表的なモーターの種類と各タイプの用途特性を含めて整理したものです。参照・調べものと機械設計の実務を支援するための、体系的な技術ノートとして構成しています。
目次
モーターの種類の選び方 – モーター選定の基本
- AC/DC と サーボ/ステッピング の基本的な違い
- 交流電源で動く AC モーターの動作原理
- 市販の商用電源の概要
- AC モーターのトルク特性
- AC モーターの耐環境性
- AC モーターの代表的なメーカーと製品
- 直流電源で動く DC モーターの動作原理
- DC 電源の確保
- DC モーターのトルク特性
- DC モーターの耐環境性
- 誘導モーター – 産業の主力
- 高効率なブラシレス DC モーターの利点
- 代表的なメーカーと製品
機械設計におけるモーターの選定・分類の考え方
- 基本パラメータの理解:トルクと回転速度
- 応答性に関わるイナーシャ(慣性)の概念
- 正確な負荷計算と選定の手順
- モータードライバーの重要な役割
- ブラシ付き DC モーター用ドライバー
- ブラシレス DC モーター用ドライバー
- ステッピングモーター用ドライバー
- AC サーボモーター用ドライバー(サーボアンプ)
1. モーターの種類の選び方 – モーター選定の基本
AC/DC と サーボ/ステッピング の基本的な違い
モーターを選ぶとき、多くの技術者は 「AC か DC か」 と 「ステッピングモーターかサーボモーターか」 という二つの問いに直面します。ここで大切なのは、これらの分類が 異なる評価軸 に立っていると理解することです。
まず 「AC モーター」 と 「DC モーター」 の区分は、モーターを動かす 電源の種類 に基づきます。AC モーターはコンセントの交流で動き、DC モーターは電池やバッテリーなどの直流で動きます。これは最も基本的な分類で、モーターの物理構造や電気的特性に直接つながります。
一方、「ステッピングモーター」 と 「サーボモーター」 の区分は、主に 制御方式と用途 に基づきます。ステッピングモーターはパルス信号に応じて決まった角度だけ回り、比較的シンプルなオープンループ制御で正確な位置に到達します。これに対しサーボモーターは、エンコーダからのフィードバックを用いる クローズドループ制御 のシステムで、位置と速度を高精度・高速に制御できます。
これらの分類は完全に独立しているわけではなく、組み合わせて使えます。たとえば現在よく使われるサーボモーターは AC 電源で動く AC サーボモーター です。そのため設計者は、まず設備に何が必要か(連続回転か正確な位置決めか)を定義し、そこから制御方式を決めるとよいでしょう。次に 利用できる電源 を確認すれば、モーターの候補を効率よく絞り込めます。
交流電源で動く AC モーターの動作原理
「AC モーター」は、家庭用または工業用のコンセントから供給される 交流(AC) で動くモーターの総称です。この 商用電源 は電力会社が供給する電気であり、その仕様は機械を使う場所によって大きく異なります。
商用電源の概要 日本の商用電源は主に次のように分類されます。
- 単相 100V:家庭で最も一般的な電源。
- 単相 200V:エアコンや IH クッキングヒーターなど、より大きな電力を消費する家電に使われます。
- 三相 200V:工場の生産設備など、大きな電力を必要とする産業機器の標準的な電源です。
したがって、設計する機械の電源が AC モーターを動かすのに必要な電源 と適合するかを判断するには、まず機械を設置する環境(家庭・オフィス・工場など)と、そこで使える電源の種類を確認することが第一歩になります。
AC モーターの利点は、この商用電源をそのまま、あるいは簡単な補助機器を介して使えること、そして構造がシンプルで耐久性が高いことです。
ただし輸出向け製品を設計する場合は、国や地域によって電圧や周波数が異なることがあるため、十分に注意が必要です。
AC モーターのトルク特性 AC モーター、特に誘導モーターは、定格回転数の近くでトルクが安定するのが特徴です。起動時にはある程度のトルク(起動トルク)を発生し、回転数が上がるとトルクも上がって最大トルクに達し、その後わずかに下がって定格回転数付近で安定します。この特性はモーターの極数によって変わります。一般に、極数が少ないモーター(2 極など)は高速・低トルク型、極数が多いモーター(6 極など)は低速・高トルク型です。
AC モーターの耐環境性 AC モーターはブラシのような摩耗しやすい部品がなく、頑丈な構造のため、総じて耐環境性が非常に高いです。特に誘導モーターは、工場のように粉じんの多い環境でも、また一定の温度変化がある場所でも安定して運転できます。さらに、防じん・防水を強化した高い保護等級(IP 規格)のモデルも多数あります。たとえば IP65 のモーターは、粉じんの侵入を完全に防ぎ、あらゆる方向からの噴流水にも耐えられるため、水に触れる可能性のある屋外機器や、食品機械の洗浄工程などに適しています。
AC モーターの代表的なメーカーと製品 AC モーターを選ぶ際は、実績と信頼のあるメーカーの製品を検討するのが一般的です。
オリエンタルモーター株式会社:小型 AC モーターで大きなシェアを持つ企業です。コンベアなど連続運転に最適な 「KIIS シリーズ」 は、多くの FA 機器で広く使われています。 URL: https://www.orientalmotor.co.jp/ja/products/ac-motors/induction/
住友重機械工業株式会社:大型の産業用ギヤードモーターで多くの実績があります。高効率・低騒音が特徴の 「ハイポニック® ギヤモータ」 や、使いやすさを重視した 「プレスト® NEO ギヤモータ」 などの製品を提供しています。 URL: https://cyclo.shi.co.jp/
直流電源で動く DC モーターの動作原理
DC モーターは、電池やバッテリーなどの直流(DC)で動くモーターです。印加する電圧を変えることで回転速度を簡単に制御できるため、速度調整が必要な機器やポータブル機器で広く使われています。
DC 電源の確保 設計する機械に DC 電源が必要かを判断する際、必ずしも電池駆動を前提とする必要はありません。実際には、AC 電源が使える環境でも DC モーターを選ぶことは非常に多くあります。その場合、AC から DC 電源を作るには、通常次のような方法がとられます。
- AC アダプターを使う:家庭の AC100V コンセントから、電子機器用の低電圧 DC(DC12V や DC24V など)を得る最も簡単な方法です。
- スイッチング電源の内蔵:産業機器の制御盤で広く使われ、AC200V から安定した DC 電源を作ります。
このように、AC 電源を使う環境であっても、速度調整のしやすさ、高い応答性、モーターの小型化といった利点を活かすために、AC/DC コンバータを介して DC モーターのシステムを構築することは、機械設計における標準的な手法の一つになっています。
DC モーターのトルク特性 DC モーターのトルク特性は、ブラシを使うかどうかで大きく異なります。
- ブラシ付き DC モーター:起動時や低速で最大のトルクを発生し、回転数が上がると直線的に低下する傾向があります。
- ブラシレス DC モーター:電子制御により、低速から高速まで非常に広い速度域で、安定した平坦なトルクを維持できます。
DC モーターの耐環境性 ブラシ付き DC モーターは、ブラシと整流子が直接接触するため摩耗しやすく、粉じんや湿気に弱いという欠点があります。これらの異物が侵入すると摩耗を早めたり導通不良を起こしたりするため、過酷な環境で使う場合はカバーなどの保護対策が欠かせません。
一方、ブラシレス DC モーターは機械的な接触部がないため、内部を完全に密閉しやすく、高い防じん・防水性能(たとえば IP67)を実現できます。そのため、ドローンのような屋外機器や、頻繁な洗浄が必要な医療・食品分野の機器に適しています。
このように AC と DC の細かな違いを理解しておくことで、適切なモーターの種類を選ぶ際のミスを減らせます。
誘導モーター – 産業の主力
誘導モーターは最も広く使われる AC モーターの一つで、そのシンプルさと頑丈さから「産業の主力」とも呼ばれます。Induction(誘導)という言葉は、このモーターが回る原理そのものを指しています。
誘導モーターの回転原理は、「アラゴの円板」 と呼ばれる物理現象で説明できます。アルミや銅の円板の上で磁石を回すと、円板は磁石に引きずられて後を追うように回ります。
これをモーターに置き換えると、次のようになります。
- ステータ(固定側) の巻線に交流が流れると、回転磁界が生まれます(回る磁石の役割)。
- この回転磁界が、導体(通常はアルミのかご形)である ロータ(回転側) を貫きます。
- 電磁誘導の法則(フレミングの右手の法則)により、ロータに誘導電流が生じます。
- 電流が流れると、ロータは磁界の中で力を受け(フレミングの左手の法則)、ステータの回転磁界の向きに回り始めます。
誘導モーターの最大の特徴は、機械的な接触なしに 電磁誘導 で回転力を伝えることです。この原理のおかげでブラシのような摩耗部品が不要となり、高い信頼性と容易なメンテナンス性を実現しています。
高効率なブラシレス DC モーターの利点
ブラシレス DC モーターは近年のモーター技術の進歩を象徴する存在で、多くの機器で従来のブラシ付き DC モーターに取って代わりつつあります。その利点は多岐にわたります。
最大の利点は 長寿命でほぼメンテナンス不要 であることです。機械的に摩耗するブラシがないため定期交換が不要となり、機器の信頼性が大きく向上します。加えて、ブラシ接触による火花や電気ノイズが発生しないため、精密機器やクリーンな環境での使用にも適しています。
もう一つの重要な利点は エネルギー効率が非常に高い ことです。ブラシ摩擦による損失がないため、同じ出力でも消費電力が少なくて済みます。これはコードレス機器やドローン(飛行時間の延長)などの電池駆動機器に特に有効で、家電の省エネ性向上にも役立ちます。
このようにブラシレス DC モーターは、効率・信頼性・有効性の面で優れた特性を兼ね備えており、現代の機械設計に欠かせない選択肢となっています。
ブラシレス DC モーターの代表的なメーカーと製品 ブラシレス DC モーターは、小型精密機器から大型産業機器まで、多くの分野で数多くのメーカーが製造しています。
ニデック株式会社(日本):ハードディスク(HDD)用スピンドルモーターで世界市場をリードし、その技術を基盤に 小型で高精度な BLDC モーター を数多く開発しています。 URL: https://www.nidec.com/jp/
ミネベアミツミ株式会社(日本):小型・薄型から高出力まで豊富なブラシレス DC モーターの製品群を持ち、デジタル AV 機器、パソコン周辺機器、車載電子機器などで広く使われています。 URL: https://product.minebeamitsumi.com/product/category/rotary/brushless/
2. 機械設計におけるモーターの選定・分類の考え方
基本パラメータの理解:トルクと回転速度
モーター選定で最も基本となる二つの指標が トルク と 回転速度 です。この二つを正しく理解することが、適切なモーターを選ぶための重要な第一歩です。
トルク:モーターが軸を回すために加える力で、単位は ニュートンメートル(Nm) です。設計では、モーターが連続して維持できる力である 定格トルク と、起動時や急加速時に一瞬だけ出せる力である 最大トルク を区別する必要があります。設備を動かすには、摩擦や重力などの抵抗力を上回るだけのトルクが必要です。
回転速度:1 分あたりの回転数で、単位は rpm(revolutions per minute) です。多くのモーターでは、トルクと回転速度は反比例の関係にあります。つまり速く回そうとすると大きなトルクを出しにくくなります。したがってモーター選定では、機械が要求する動作速度で十分なトルクを供給できる ことを確認しなければなりません。
応答性に関わるイナーシャ(慣性)の概念
イナーシャ(日本語では 慣性モーメント)は、物体の回しにくさ、あるいは回転状態を保とうとする度合いを表す指標です。この概念は、速い加減速 や 正確な位置決め を要する駆動系で特に重要になります。
モーターを選ぶときは、モーターのロータの慣性モーメント と、モーターが駆動する負荷(機械機構全体)の慣性モーメント の両方を考える必要があります。この二つの値の比を イナーシャ比(慣性比) と呼びます。
イナーシャ比が大きすぎると、モーターは負荷を思いどおりに制御しにくくなり、振動 や 整定時間の増大 などの問題を招きます。これは重すぎるハンマーを振ろうとするのに似ています。狙った点に正確に導くのが難しくなるのです。
特に高い応答性が求められる サーボモーター では、イナーシャ比を メーカーの推奨値(一般に 10 倍以下)に収めることが、安定した制御 のための必須条件となります。
正確な負荷計算と選定の手順
モーター選定は、勘や経験だけに頼るのではなく、ミスを避けるために 体系的な手順 に沿って進めるべきです。この手順は主に四つのステップから成ります。
技術要求の定義 まず、設備の動作(移動距離・速度・時間)、動かす物の質量と種類、使用環境を具体的に定義します。
負荷の計算 上記の要求を満たすのに必要な力を計算します。内容は次のとおりです。
- 連続負荷トルク:摩擦と重力に打ち勝つために必要な力。
- 加速トルク:物を加速させるために必要な力で、先に述べた 慣性モーメント に比例します。この計算は動く設備で特に重要です。
モーターの一次選定 計算結果(必要な最大トルクと最大回転速度)をもとに、メーカーのカタログを参照して候補モーターの一覧を作ります。
最終確認 イナーシャ比 を確認し、連続運転時の温度が許容範囲に収まるかを点検して、その用途に 最適 なモーターを選びます。
モータードライバーの重要な役割
モーターは、電源に直接つなぐだけでは思いどおりに動きません。モーターの能力を最大限に引き出し、正確な制御を行うには、電子回路である モータードライバー が欠かせません。
モータードライバーに求められる機能はモーターの種類によって大きく変わるため、モーターとそれに合うドライバーをセットで選ぶ ことが非常に重要です。
ブラシ付き DC モーター用ドライバー ブラシ付き DC モーター用ドライバーは比較的 シンプル です。その主な役割は モーターに供給する電圧を調整して速度を制御する ことで、通常は パルス幅変調(PWM) で行います。さらに H ブリッジ回路 で電流の向きを変えることで、モーターの 回転方向を反転 させる(正転・逆転)こともできます。
ブラシレス DC モーター用ドライバー ブラシレス DC モーターでは、ドライバーは単なる制御装置ではなく、モーターを回すために不可欠な部品 です。ドライバーはブラシと整流子の役割を 電子回路 で置き換え、ホールセンサなどから得たロータ位置の情報に基づいて、三つの巻線への電流を正確なタイミングで切り替え ます。この機能を 電子整流(電子転流) と呼びます。この機能がなければ、ブラシレス DC モーターは 回ることができません。
ステッピングモーター用ドライバー ステッピングモーター用ドライバーは、上位コントローラからのパルス信号を解釈 し、巻線を決まった順序でオン・オフ(通電)する信号列 を生成します。現在では、ほとんどのドライバーが マイクロステップ 機能を備えており、巻線に流す電流を細かく変化 させます。これにより、基本 ステップ角 よりも滑らかに回転でき、振動を抑えて より滑らかな動き を実現します。
AC サーボモーター用ドライバー(サーボアンプ) サーボモーターのシステムでは、ドライバーは サーボアンプ と呼ばれ、最も複雑で高機能 なタイプです。その中心的な機能は、エンコーダからの極めて高速なフィードバック信号(毎秒数万〜数百万パルス)を処理し、指令値との微小な誤差を計算 して、モーターへの出力をリアルタイムに連続調整 し、その誤差をゼロに近づけることです。こうした高度な演算(たとえば PID 制御)に加えて、ドライバーは設備の機械的特性に合わせて系の応答性を最適化する ゲイン調整(チューニング) の機能も備えています。
パート1はここまで。
MINATA からの補足
MINATA はこれらのノートを、実務的な技術の視点からの参考資料として共有しています。図面・規格・発注条件、あるいは日本語とベトナム語の間での用語の解釈など、さらに相談したい点があれば、お気軽にご連絡ください。一緒に確認いたします。
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