機械設計 #04:機械設計におけるモーターの選定 – パート2
本記事は、機械設計におけるモーター選定の考え方と特性の整理を続ける技術ノートで、ステッピングモーターとサーボモーターの違いと使い分けに焦点を当てます。
目次
3. 高精度なモーター選定 – サーボとステッピングの違い
- 電気パルスで動くステッピングモーター
- ステッピングモーターのトルク特性
- ステッピングモーターの耐環境性
- 代表的なメーカーと製品
- サーボモーター – 高い応答性が際立つ
- サーボモーターのトルク特性
- サーボモーターの耐環境性
- 代表的なメーカーと製品
- 高精度な位置決めを実現する方法
- オープンループ制御とクローズドループ制御
- 位置情報の検出におけるエンコーダの役割
4. 応用例から学ぶモーター選定・分類の要点
- 産業用ロボットのモーター – FA の中核
- 精密加工を担う工作機械のモーター
- 搬送装置のモーター – 物流を支える
- 半導体製造装置のモーター
- 次世代モビリティのモーター:EV・ドローン
- 医療機器のモーター – 生命を支える
5. モーター選定に必要な補足知識と補助機器
- トルクを増幅する減速機の活用
- DC と AC を変換する「インバータ」の役割
- トルクとモーター出力(kW)の理解
- 回転方向の確認
6. 最適なモーター選定・分類のまとめ
3. 高精度なモーター選定 – サーボとステッピングの違い
電気パルスで動くステッピングモーター
ステッピングモーターは、入力される電気信号(パルス)の数に応じて、決まった角度(ステップ)ずつ回転するモーターです。このデジタル的な動作原理から「パルスモーター」とも呼ばれます。
最大の利点は、フィードバックセンサなしで正確に位置決めできることです。コントローラが送ったパルスの数を数えるだけで、モーターがどれだけ回ったかを把握できるため、システム構成が非常にシンプルで低コストになります。さらに、停止時でも電流を流し続ければ、強い保持トルク(ホールディングトルク)を発生して位置を維持します。
一方で欠点もあります。負荷がモーターの能力を超えると「脱調」が起こり、パルス数どおりに回らず位置ずれを生じることがあります。そのためステッピングモーターは、負荷が比較的安定していて過度な高速を要求しない、3D プリンタや分析装置などの機器でよく使われます。
ステッピングモーターのトルク特性
ステッピングモーターの最大の特長は、低速域で非常に高いトルクを発生できることです。特に、停止していても通電されていれば「最大保持トルク(ホールディングトルク)」を発生して位置を固定します。ただし回転速度が上がるとトルクは急速に低下するため、高速運転には向きません。この特性から、「短い距離を素早く動いて正確に止まる」といった間欠的な位置決め動作に非常に適しています。
ステッピングモーターの耐環境性
ブラシレス構造のため、ステッピングモーターはブラシ摩耗による粉じんを発生せず、クリーンな環境に適しています。モーター本体はかなり頑丈ですが、高精度な位置決めを実現するには温度管理が非常に重要です。大電流を長時間連続して流すと、温度上昇が性能に影響します。
よく用いられる対策には、放熱板の取り付けや、停止時の電流ダウン機能の活用などがあります。防じん・防水が求められる環境であれば、高い IP 保護等級のモデルを選ぶか、保護カバーでモーターを覆う必要があります。
代表的なメーカーと製品
ステッピングモーターは、特に FA(ファクトリーオートメーション)分野で多くのメーカーから供給されています。
シナノケンシ株式会社 Plexmotion ブランドを展開し、コントローラとドライバを一体化したタイプなど、使いやすさを重視しています。CSA-UP シリーズはコントローラ・ドライバ・モーターを一式にまとめ、位置決めシステムを容易に構築できます。 URL: https://www.plexmotion.com/
山洋電気株式会社 SANMOTION シリーズが主力製品で、高トルク・低騒音・低振動を特長とします。特に二相の SANMOTION F2 システムは、半導体製造装置や医療機器など高い信頼性が求められる分野で広く使われています。 URL: https://www.sanyodenki.com/
サーボモーター – 高い応答性が際立つ
サーボモーターとは? サーボモーターは単なるモーターではなく、次の三つの要素からなる システム です。
- 高い応答性を持つ 主モーター。
- 動きを監視する フィードバックセンサ(エンコーダ)。
- 両者を結び付けて制御する「頭脳」の役割を担う ドライバ(サーボアンプ)。
サーボモーターの最大の特長は、エンコーダからのフィードバックに基づく クローズドループ制御 にあります。ドライバは 「指令された位置」 と 「エンコーダが示す実際の位置」 を常に比較し、誤差があればただちにモーターへの電力を調整して誤差を打ち消します。
この仕組みにより、サーボモーターは 極めて高速かつ高精度 な位置決めを実現します。同時に、予期しない負荷が加わっても、自動的にトルクを増して指令位置を保つため、負荷変動に対する耐性が非常に高いのが特長です。速く・強く・正確な動きが求められる 産業用ロボットや工作機械には欠かせない 機器です。
サーボモーターのトルク特性
サーボモーターのトルク特性は ステッピングモーターとは逆 です。低速から定格回転数、さらに高速域に至るまで、広い帯域で大きく安定したトルク を維持できます。
この「平坦な」特性のおかげで、次のような用途に適します。
- 長い距離を高速で移動する。
- 速く回しながら大きな力も必要とする、たとえば 切削・フライス・研削 などの加工。
これにより、動的な運動(ダイナミックモーション)を非常に効率よく実行できます。
サーボモーターの耐環境性
サーボモーター本体は主に ブラシレス 構造で、多くのモデルが高い IP 等級に適合しているため、モーターの耐環境性はかなり高い と言えます。ただしサーボシステム全体で見ると、最も敏感な部品は位置を検出するセンサである エンコーダ です。
エンコーダは精密な光学部品と電子回路からなり、次の要因の影響を受けやすいものです。
これらは故障につながることがあります。そのため過酷な環境では、耐環境性の高い レゾルバ(磁気式センサ) を用いるモデルを選ぶか、適切な遮へい策でモーターを保護 する必要があります。
代表的なメーカーと製品
高効率な AC サーボモーターは、FA 業界の大手各社が競って開発する分野です。
三菱電機株式会社 汎用サーボの MELSERVO シリーズは、業界標準として広く認知されています。新世代の MELSERVO-J5 は 業界トップクラスの応答速度 を実現し、高分解能エンコーダを搭載して設備の生産性向上に貢献します。 URL: https://www.mitsubishielectric.co.jp/fa/products/drv/servo/
株式会社安川電機 世界で初めて完全デジタルサーボを商用化した企業です。Σ(シグマ) シリーズは高い信頼性で知られます。新世代の Σ-X は運動性能の向上に加え、センサデータに基づく 予知保全(予兆保全) の機能を統合しています。 URL: https://www.yaskawa-global.com/product/servomotor
高精度な位置決めを実現する方法
正確な位置決めを実現したいとき、主に使われる選択肢は ステッピングモーター と サーボモーター の二つです。どちらを選ぶかは 設備の技術要求 によって決まります。
まず システムのコストと複雑さ を考えます。ステッピングモーターは オープンループ制御 の原理で動き、フィードバック機構を必要としないため、システム全体がサーボよりもシンプルで低コストです。負荷が事前に予測でき、脱調のリスクが小さければ、ステッピングモーターは コスト効率のよい 選択です。
逆に、より高いレベルの性能が求められる場合は サーボモーター を選ぶべきです。たとえば、
- 連続的で頻度の高い加減速運動。
- 運転中に負荷が大きく変動しうる用途。
- あるいは 脱調が絶対に許されない 状況。
こうした場合には、クローズドループ制御 のサーボモーターが、必要な信頼性と応答速度をもたらします。
ステッピングとサーボの比較
- 制御方式:ステッピング — オープンループ(フィードバックなし)/サーボ — クローズドループ(エンコーダフィードバック)。
- 位置決め:ステッピング — パルス計数で低速では正確だが過負荷で脱調しうる/サーボ — 負荷変動下でも高精度を維持。
- トルクと速度:ステッピング — 低速で高トルク、高速で急低下/サーボ — 広い速度帯で大きく平坦なトルク。
- システムのコストと複雑さ:ステッピング — シンプルで低コスト/サーボ — 複雑で高コスト。
- 適した用途:ステッピング — 予測可能な負荷・短い正確な移動/サーボ — 脱調が許されない動的で高頻度の運動。
オープンループ制御とクローズドループ制御
モーターの制御方式は大きく二つに分かれます。
オープンループ制御 コントローラはモーターへ一方向に指令を送るだけで、フィードバックで確認しません。システムは安価でシンプルです。ステッピングが代表例で、100 パルスを送れば、モーターがちょうど 100 ステップ回ったと仮定します。しかし予期しない負荷でモーターが滑る(脱調する)と、コントローラはそれを検出できません。
クローズドループ制御 エンコーダ やセンサからのフィードバック信号を用います。コントローラは指令値と実際値を常に比較し、誤差を打ち消すように調整します。サーボモーターが典型例で、常に「目標」と「実際の位置」を監視し、高い精度と信頼性を実現します。
サーボモーターにおけるエンコーダの役割
エンコーダはサーボシステムの 「目」 の役割を果たします。モーター軸に取り付けられ、回転角度と速度を検出して、電気信号としてドライバへフィードバックします。エンコーダがあってこそ、クローズドループ制御が可能になります。
主に二つの種類があります。
インクリメンタルエンコーダ(増分式)
- 回転量に応じてパルス信号を出力します。
- 原点からの 相対位置 がわかります。
- 構造がシンプルで安価です。
- 欠点:電源を切ると 現在位置の情報をすべて失う ため、起動時に原点復帰(ホーミング)が必要です。
アブソリュートエンコーダ(絶対式)
- 各回転角度に固有の信号を出力します。
- 停電後でも常に 絶対位置 を把握できます。
- 起動時に原点復帰が不要です。
- ただし構造が複雑で、コストは高くなります。
4. 実際の応用例から見るモーターの選定・分類
モーター – FA における産業用ロボットの心臓
ファクトリーオートメーション(FA) の分野では、産業用ロボットはモーター技術の結晶とみなされています。ロボットは人の腕のように多数の関節を持ち、各関節が高精度・高速に連携して動くことで、溶接や組立といった複雑な作業を実行できます。
ロボットの関節を駆動するには、ほぼ例外なく 高効率の AC サーボモーター が使われます。理由は、各関節にかかる負荷がロボットアームの姿勢によって常に変化する一方で、ロボットは指定された軌道を絶対的な精度と高速で追従しなければならないからです。クローズドループ制御により、サーボモーターは負荷変動に強く、制御信号に素早く反応します。ロボットの性能は、関節に取り付けられたサーボモーターの性能でほぼ決まると言ってよいでしょう。
工作機械のモーター – 精密加工の基盤
マシニングセンタ などの CNC 工作機械は、金属の塊から精密な部品を作り出す「マザーマシン(母なる機械)」です。ここでは役割の異なる二種類のモーターが協働します。
軸駆動モーター: テーブルや工具を X・Y・Z 軸に沿って精密に動かすために使います。サブミクロンの位置決め精度が求められるため、AC サーボモーターが標準的に使われます。切削力による大きな負荷変動があっても正確な位置を保てることが必須です。
スピンドルモーター(主軸モーター): 切削工具を高速で回すために使います。専用タイプの ビルトインスピンドルモーター(AC モーターの一種)は、広い回転速度域で高トルク・高出力を安定して発生するよう設計されています。
搬送装置のモーター – 物流の柱
物流センター や工場の生産ラインでは、搬送装置は役割に応じて多様なモーターを使います。
ベルトコンベア では、安定した速度での連続運転が求められ、耐久性と低コストが優先されます。そのため、シンプルで頑丈な AC 誘導モーターが最適な選択です。
一方、包装機やラベル貼付機 などの装置では、正確な位置決めと間欠動作が必要です(たとえば、フィルムを正しい長さだけ引き出す、ラベルを正しい位置に貼る)。この場合、オープンループ制御で容易に高精度を得られる ステッピングモーター がよく使われます。
半導体製造装置のモーター – 特別な要求
半導体の製造はクリーンルームで行われ、微小な粉じんや振動さえ許されません。そのため、シリコンウエハ を搬送するロボットや 露光装置 では、特別な種類のモーターが使われます。
歯車の摩耗(粉じんの発生)や機械的なバックラッシを生じやすい減速機付きモーターの代わりに、次のものが用いられます。
ダイレクトドライブ(DD)モーター
リニアモーター
リニアモーターは、回転を直線運動に変換する機構を介さず、電磁力で直接、直線運動を生み出します。これにより機械的な誤差を排除し、ナノメートル 単位の精度を、高速を確保しながら実現します。
次世代モビリティのモーター:EV・ドローン
電気自動車(EV) や ドローン の性能は、搭載するモーターから直接影響を受けます。
EV: 駆動モーターは、バッテリーのエネルギーを最も効率よく移動エネルギーへ変換しなければなりません。そのため多くの車種で、小型・軽量でありながら高効率・高出力を実現する 永久磁石同期モーター(PMSM) が使われています。
ドローン: 飛行姿勢を正確に制御するため、極めて軽量で即応性のあるモーターが必要です。したがって、ほぼすべてのドローンは、小型・軽量・高効率で飛行時間の延長に寄与する ブラシレス DC モーター(BLDC) を使っています。
医療機器のモーター – 人命に直結する場
医療機器、特に患者の生命に直接かかわる機械では、モーターに絶対的な信頼性と安全性 が求められます。
たとえば、医師が遠隔操作する 手術支援ロボット では、腕の関節に、極めて精密な制御が可能な DC サーボモーター(主にブラシレス) が使われます。低速でも滑らかに動き、不要な振動を起こさないため、医師の繊細な操作を忠実に再現し、高い精度が求められる手術を可能にします。
さらに、人工心肺装置 や 血液ポンプ では、高い耐久性で長時間連続運転できるモーターが必要です。そのため ブラシレス DC モーター が使われ、摩耗による故障リスクが小さく、回転速度を安定して制御できることから、患者の生命維持に貢献します。
5. モーター選定に必要な補助機器と補足知識
トルクを増幅する減速機の活用
モーターを選ぶ際、モーター単体ではすべての要求を満たせない場合があります。特に、大きなトルクは必要だが高い回転速度は不要 な場合は、減速機(ギヤヘッド) が解決策になります。
減速機は歯車の組み合わせでモーターの回転速度を下げると同時に、トルクを増幅 します。たとえば減速比 10:1 の減速機を使うと、回転速度は 1/10 になりますが、トルクは約 10 倍になります。これにより、小型・高速のモーターでも 低速・大トルク を要する用途に対応できます。
減速機のもう一つの重要な役割は、モーター軸から見た負荷の慣性モーメント(イナーシャ)を減速比の二乗で低減 することです。これはサーボモーターの設計で特に有用で、イナーシャ比を大きく改善し、制御系の安定性を高めます。
DC と AC の変換 – インバータの役割
インバータ は、簡単に言えば 電流を変換・制御する装置 です。主な機能は 直流(DC)を交流(AC)に変換する ことです。インバータのおかげで、モーターの選択と制御の幅が広がり、より柔軟になります。
トルクと出力(kW)の理解
モーター選定の過程で、技術者はしばしば トルクとモーター出力(kW)の間で換算・計算 する必要があります。これは基本的な知識ですが、異なるメーカーの多数のモーターを比較・対照して最適案を選ぶときに非常に役立ちます。
モーターの回転方向を意識する
モーターには CW(時計回り) や CCW(反時計回り) といった回転方向の記号があります。これらは設計段階で重要な用語です。正しく理解し、一貫して使うことで、技術者間のコミュニケーションと連携がより円滑で正確になります。
6. 最適なモーター選定・分類のまとめ
本記事では、機械設計におけるモーターの選定と分類 を総合的に解説しました。最適なモーターを選ぶには、まず 全体像 を把握することが必要です。
モーターは エネルギー源(AC/DC) と 制御方式(サーボ/ステッピング) で分類されます。
- AC モーター:商用電源で動き、頑丈。代表例は誘導モーター。
- DC モーター:速度制御が容易。現在の主流はブラシレス DC モーター。
選定の基本原則は、トルク・回転速度・イナーシャ(慣性)の三つの指標 に基づくことです。正確で体系的な負荷計算 に基づく選定手順が、ミスを防ぎます。
正確な位置決め には、通常 ステッピングモーター か サーボモーター を選びます。
- ステッピングモーター:オープンループ制御、シンプルで低コスト。
- サーボモーター:クローズドループ制御、高精度・高応答。
どちらを使うかは、性能要求とコストのバランス で決まります。
モーターの性能は ドライバ(モーター制御装置) に大きく依存します。エンコーダ はサーボシステムの「目」として精度を保証します。減速機 は トルクの増幅とイナーシャ比の改善 に欠かせない部品です。
FA、半導体、家電、自動車、医療 など、それぞれの分野に適したモーターがあります。各業界の実例を通して、なぜそのモーターが選ばれるのか を理解できます。
モーターの選定はまさに 設計の中心 であり、機械全体の性能とコストを左右します。
以上。
MINATA からの補足
MINATA はこれらのノートを、実務的な技術の視点からの参考資料として共有しています。図面・規格・発注条件、あるいは日本語とベトナム語の間での用語の解釈など、さらに相談したい点があれば、お気軽にご連絡ください。一緒に確認いたします。
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