機械設計 #26:設計費と工数の見積り — WBSから実績工数の管理まで
機械設計を見積るとき、最も難しい問いはたいてい「時間単価はいくらか」ではありません。この仕事に実際どれだけの工数が必要なのかです。
いまでも設計費を機械価格の一定比率で見積る会社は少なくありません。最後の妥当性確認としては使えますが、主たる根拠にするには信頼性が足りません。製作費が同程度の機械でも、設計工数は大きく異なり得ます。既存構造を80%流用する機械と、現地調査を行い複数案を試し、途中で購入品を変更する新規開発とでは、まったく別物です。
ずれの少ない見積りを出すには、作業を十分小さな項目に分解し、前提条件を明記し、検図と修正の時間も含め、案件ごとに見積りと実績を比較する必要があります。「自分がやればこれくらい」という感覚に頼るのではなく、こうして見積り能力を組織的に積み上げていきます。
機械価格の一定比率で設計費を決めない
次のような言い方を耳にします。
- 設計費は機械価格の一定比率である。
- 図面は設備総額の一定割合を占める。
- 機械が高価なほど設計費も高い。
これらの比率が意味を持つのは、履歴データが十分に多く、機械の種類が比較的似ている場合だけです。実際には、設計費は製作費に比例しない多くの要因に左右されます。
- 機構の新規性。
- 入力となる仕様書とレイアウトの完成度。
- 設計すべきユニットの数。
- 機械、電気、空気圧、ソフトウェアのインターフェース数。
- 既存設計の流用可能性。
- デザインレビュー(DR)の回数。
- 顧客が要求を変更する回数。
- メーカーからCADデータを入手できるか。
- 文書、BOM、組図、部品図、引渡書類の要求。
- 設計担当者と検図者の力量。
同じ製品ラインの1号機と2号機でも、設計費は同じであるべきではありません。1号機は方式検討、原理検証、初期の不具合対応を負担します。2号機はデータの大部分を流用できますが、1号機のフィードバックによる修正工数は発生します。
したがって、機械価格に対する比率はクロスチェックにとどめ、主たる見積り手法にしてはいけません。
混同されやすい三つの数字を分ける
見積りでは、次の三つを明確に分けます。
設計工数
対象範囲を完了するために実際に必要な総時間です。
- 要求のヒアリング。
- 現地調査と打合せ。
- 方式検討。
- 計算と部品選定。
- 3Dモデリング。
- 図面作成。
- 検図。
- 修正。
- 調整と資料準備。
社内原価
社内原価は、単一の単価に工数を掛けたものではありません。複数の人員クラスが関わるなら、作業グループごとに計算します。
社内労務費
= Σ(各作業グループの工数 × 対応する社内単価)
そのうえで直接費を加えます。
社内原価
= 労務費
+ 外注費
+ 出張費
+ 追加で発生するソフトウェア・ライセンス費
+ その他の直接費
顧客提示価格
顧客提示価格は、社内原価、管理時間、商流上のリスクを吸収できなければなりません。
顧客提示価格
= 社内原価
+ プロジェクト管理費
+ リスク予備費
+ 利益
この三層を分けないと、工数の見積りは比較的正確でも、管理費、外注費、回収しにくい変更対応が抜け落ちて会社は赤字になります。
数字ではなく、範囲と前提から始める
工数を書き込む前に、最低限次を明確にします。
- 完全な新規設計か、既存機の改造か。
- 顧客の仕様書は完成しているか。
- 全体レイアウトと他設備との接続位置は決まっているか。
- 電気、ソフト、空気圧、安全の担当はどこか。
- 現地調査は必要か。
- 社内DRと顧客DRはそれぞれ何回か。
- 成果物は何か。
- 製作図、BOM、空気圧回路図、組立要領書、保全手順書は必要か。
- 範囲に含む修正回数は何回か。
- 購入品のCADデータは入手できるか。
- 納期は正規の手順を許すのか、増員や並行作業が必要か。
答えが出ていない項目は、見積り前提として書き出します。前提は付随的なものではありません。新しい要求がいつ追加作業になるかを判断する根拠です。
工数を見積る前にWBSで分解する
WBS(Work Breakdown Structure)は、プロジェクトを小さな作業項目へ分解する手法です。機械設計では三階層がよく機能します。
機械全体
→ ユニット
→ サブユニットまたは具体的な作業項目
例:
組立機
├─ ワーク供給
│ ├─ ワーク収納機構
│ ├─ 分離機構
│ └─ 確認センサ
├─ 搬送
│ ├─ コンベア
│ ├─ ストッパ機構
│ └─ 位置決め機構
└─ 組立ステーション
├─ XYZ軸
├─ 作業ヘッド
└─ 製品保持治具
分解が細かいほど、工数の割り当ては感覚に依存しなくなります。見積りが超過あるいは不足したときも、プロジェクト全体がずれたことしか分からないのではなく、どの項目が誤っていたかを特定できます。
工数のグループごとに個別に積む
設計着手前の作業
多くの見積りはCADを開いた瞬間から始まりますが、プロジェクトはそれ以前にすでに時間を消費しています。
- 要求の読み込み。
- 入力データの確認。
- キックオフ打合せ。
- 現地調査。
- 寸法測定。
- 写真撮影と調査記録。
- 既存機とのインターフェース確認。
- DR資料の準備。
CAD画面をまだ開いていなくても、これらは設計作業の一部です。
構想設計と全体設計
この段階には通常次が含まれます。
- 動作原理の決定。
- 案の比較。
- サイクルタイム計算。
- スペースの確認。
- レイアウトの検討。
- 製品の流れの決定。
- 駆動方式の選定。
- 安全リスクアセスメント。
- 全体図または計画図の作成。
全体段階での誤りは、すべての部品図へ波及します。安く見積るために構想設計の工数を削り、後の修正で取り返そうとしてはいけません。
ユニット・サブユニット単位の詳細設計
各ユニットは、少なくとも次に分解します。
- 計算と機器選定。
- 購入品CADデータの調整。
- 3Dモデリング。
- ストロークと干渉領域の確認。
- 加工部品の詳細設計。
- プレート、フレーム、溶接構造の設計。
- 組図。
- 部品図。
- BOM。
- 隣接ユニットとのインターフェース。
インターフェースの多い小さなユニットは、大きくても独立した構造より時間がかかることがあります。
図面作成
図面作成は、モデルから図面を生成する操作だけではありません。一枚の図面に次が必要になることがあります。
- 製作工程に合わせたモデルの修正。
- 寸法基準の選定。
- 投影図と断面の配置。
- 機能寸法の記入。
- 寸法公差の記入。
- 幾何公差の記入。
- 表面性状の指示。
- 材質の記入。
- 熱処理の記入。
- 表面処理の記入。
- ねじ、穴、面取り、Rの確認。
- 加工性と測定可能性の確認。
単純な図面は短時間で終わります。データムが多い、幾何公差が多い、特殊処理があるといった図面は、別枠で評価しなければなりません。
検図と設計レビュー
穴が二つあるプレートは数分で描けますが、検図は穴が二つあるかを見るだけではありません。検図者は次も確認します。
- 穴は購入品と一致しているか。
- 取付ピッチはカタログどおりか。
- 締付工具を入れられるか。
- 隣接ユニットと干渉しないか。
- 公差は機能に十分で、かつ厳しすぎないか。
- 材質と処理は適切か。
- BOMの型式と数量は正しいか。
- 3Dデータと図面は一致しているか。
検図の比率をすべての案件で固定してはいけません。リスクに応じた参考比率を使います。
| 条件 | 図面工数に対する検図工数の目安 |
|---|
| 繰り返し図面、標準化が進んでいる | 10〜15% |
| 通常の設計 | 15〜25% |
| 新規機械、インターフェースが多い | 25〜35% |
| 精密機器、要求が厳しい | 30〜50% |
これらは義務的な基準ではありません。各社が実績データで補正すべきです。
修正と変更
見積り超過が最も起きやすいグループです。
修正が生じる原因:
- 選定した機器が入手できない。
- 納期が長すぎる。
- 在庫部品を使わざるを得ない。
- 顧客が機能を追加する。
- 全体レイアウトが変わる。
- 別ユニットがインターフェースを変更する。
- DRの結果、構造変更が必要になる。
- 試験後に剛性やストロークの変更が必要になる。
次を区別します。
- 設計ミスの修正: 設計側の責任。
- 合意済み範囲内の調整: 含まれる修正回数に算入できる。
- 要求または範囲の変更: 追加見積りの検討対象。
見積書に修正回数を明記していなければ、ほぼすべての変更が「価格に含まれている」と解釈されます。
打合せ、調整、CAD外の作業
次はよく見落とされます。
- 社内打合せ。
- 顧客打合せ。
- サプライヤとのやり取り。
- DR資料の準備。
- 日程作成。
- 見積書作成。
- データ管理。
- ファイル出力と形式確認。
- 引渡書類の準備。
- 製作・組立からの問合せ対応。
これらを「設計外工数」と呼ぶべきではありません。直接モデルを作るわけではありませんが、モデルと図面を実際に製作できる技術成果物にするために必要な作業です。
部品図の見積り
3Dモデルを2D図面にする作業は次のように分解できます。
部品図工数
= モデル修正・整理の工数
+ 図面作成の工数
+ 検図の工数
+ その他処理の工数
工数を増やす要因:
- 元モデルに不具合があり、フィーチャーの修正が難しい。
- 明確な寸法基準がない。
- 断面が多い。
- 幾何公差が多い。
- 熱処理や表面処理がある。
- 溶接部品や板金で固有の指示が必要。
- 顧客固有の図面フォーマットに従う必要がある。
部品の大きさだけを根拠に、すべての図面へ一律の時間を当てはめてはいけません。
部品トレース作業の見積り
PDFや2D図面から部品を再構築する場合:
トレース工数
= データの読み取りと検証
+ 3Dモデリング
+ 図面作成
+ 検図
+ 不足情報の明確化
元資料の品質が大きく影響します。
| 元資料の品質 | 特徴 | 影響 |
|---|
| 良い | ベクタPDF、寸法と公差が揃っている | そのままモデリングできる |
| 中程度 | 図面は明瞭だが一部情報が欠けている | 推定と確認が必要 |
| 悪い | 不鮮明なスキャン、寸法が矛盾 | 検証とやり取りの時間が大幅に増える |
寸法が欠けている図面について、設計者が推測した値を正式データとして扱ってはいけません。不明点は質問リストまたは前提として記録します。
購入品の見積り
購入品の処理時間も設計工数です。
よくある状況:
- メーカーが3Dデータを提供している。
- 2D図面しかなく、3Dを作成する必要がある。
- 3Dデータはあるが、変換、整理、軽量化が必要。
- メーカーへ依頼する必要がある。
- 信頼できるデータがなく、カタログ寸法から簡易モデルを作る。
作業内容:
- 正しい型式を探す。
- 改訂版を確認する。
- ファイルをダウンロードする。
- 単位を確認する。
- 座標系を確認する。
- STEP、Parasolidなど中間形式へ変換する。
- 不要な内部形状を削除する。
- 取付寸法を確認する。
- ストロークと立入禁止領域を確認する。
- データ出所を記録する。
労働時間と待ち時間は分けて考えます。メーカーの回答を3日待つことは24時間の工数ではありませんが、日程には影響します。
見積り工数の総合式
単純な構成で十分です。
基礎工数
= 準備工数
+ 設計工数
+ 図面工数
+ 検図工数
+ 修正工数
+ 打合せ・調整工数
+ データ準備工数
そのうえでリスク係数を適用します。
見積り工数
= 基礎工数 × リスク係数
リスク係数は不確実性を反映するものであり、恣意的な上乗せではありません。
| 案件の種類 | 参考係数 |
|---|
| 安定した設計の繰り返し | 1.05〜1.10 |
| 既存機の改造 | 1.10〜1.20 |
| 新規機械、要求は比較的明確 | 1.20〜1.30 |
| 新規開発、未確定点が多い | 1.30〜1.50 |
仕様の空白が多いのに係数が低いままなら、その見積りは精密に見えるだけで、実際にはリスクを制御できていません。
工数を人日へ換算する
8時間の勤務日が8時間の有効設計時間になるとは限りません。実際の時間は次にも配分されます。
- 社内会議。
- メールと連絡。
- 他案件の支援。
- データ管理。
- 事務作業。
- 日中の中断。
式は明確に定義した値を参照すべきです。
設計人日
= 見積り工数 / 1日あたりの有効時間
例えば1日7時間の有効時間を使うなら、ファイル全体で一貫して使います。上段は8時間で計算し、下の注記では10時間、といった不整合は避けてください。
計算例
小型ユニットの基礎見積りが次だとします。
| 作業グループ | 工数 |
|---|
| 準備・現地調査 | 10 |
| 設計・機器選定 | 80 |
| 図面作成 | 56 |
| 検図 | 14 |
| 想定修正 | 16 |
| 打合せ・調整 | 12 |
| データ準備 | 8 |
| 基礎工数合計 | 196 |
新規設計だが仕様は比較的明確なので、係数1.20を選びます。
見積り工数 = 196 × 1.20 = 235.2 時間
1日7時間の有効時間なら:
設計人日 = 235.2 / 7 ≈ 33.6 日
これは設計人日であって、暦日ではありません。二人で並行しても、作業項目の前後関係と検図時間があるため、日程が自動的に半分になるわけではありません。
上記の数値は手法を示すためのもので、あらゆる案件に通用する基準値ではありません。
見積りの段階から変更を管理する
見積書には、含まれる内容を明記します。
- 社内DRの回数。
- 顧客DRの回数。
- 修正回数。
- 引き渡すデータの種類。
- CAD形式。
- BOMを含むか。
- 空気圧回路図を含むか。
- 製作・組立支援を含むか。
- 試運転後の更新を含むか。
さらに、再評価が必要になる場合も記載します。
- 仕様変更。
- レイアウトまたはインターフェースの変更。
- 顧客要求による部品変更。
- ユニットまたは機能の追加。
- 図面基準の変更。
- 増員や時間外を要する日程変更。
- 当初前提と異なる入力データ。
詳細な見積り明細は、価格を説明するためだけのものではありません。どこまでが範囲内で、どこからが追加なのかを示す証拠にもなります。
見積りと実績工数を比較する
見積りは検証して初めて良くなります。
案件ごとに次を記録します。
基本の式:
工数差異 = 実績工数 - 見積り工数
差異率
=(実績工数 - 見積り工数)/ 見積り工数 × 100%
「設計者が遅い」で片付けてはいけません。原因を分類します。
- 見積りに作業項目が抜けていた。
- 仕様が変更された。
- CADデータが入手できなかった。
- 担当者の力量が合っていなかった。
- 検図時間を過小に見ていた。
- 修正回数が前提を超えた。
- 案件が中断した。
- 製作支援を別項目にしていなかった。
案件を重ねれば、機種群ごと、図面種類ごと、設計者クラスごとの実績データが得られます。そうなれば、リスク係数と標準工数は、外部から借りたひな形よりはるかに信頼できるものになります。
設計工数の見積りでよくある誤り
- 3Dモデリングと2D作図の時間しか数えない。
- 現地調査、打合せ、DR準備を計上しない。
- 部品データを探す時間を計上しない。
- 検図比率を低く見積る。
- ミス修正と要求変更を分けない。
- 修正回数を制限しない。
- すべての案件に同じリスク係数を使う。
- 合計工数を数式でなく手入力する。
- 1日あたりの有効時間を統一しない。
- 出張費を設計工数に混ぜる。
- 除外項目を記載しない。
- 見積りと実績を比較しない。
見積書を出す前のチェックリスト
範囲
- 新規設計か改造かを明確にした。
- ユニットとサブユニットの一覧がある。
- 成果物を定義した。
- CADと図面の形式を明記した。
- 各社の担当範囲を定義した。
入力データ
- 仕様は見積りに十分である。
- レイアウトとインターフェースを確認した。
- 購入品データを確認した。
- 不明点を前提として記録した。
工数
- 現地調査と打合せの工数を計上した。
- 設計と機器選定を計上した。
- 図面工数を計上した。
- 検図工数を計上した。
- 想定される修正工数を計上した。
- 調査とデータ準備の工数を計上した。
- 根拠のあるリスク係数を適用した。
商流と変更
- DR回数を明記した。
- 含まれる修正回数を明記した。
- 追加見積りの条件を明記した。
- 直接費を分けて記載した。
- プロジェクト管理費と利益を計上した。
- 見積書の有効期限を記載した。
まとめ
機械設計費の見積りとは、素早く数字を当てることではありません。プロジェクトが始まる前に作業をモデル化することです。
良い見積りは次に答えられます。
- 何をするのか。
- 誰がやるのか。
- 何時間かかるのか。
- 前提はどの条件に基づくのか。
- 検図と修正は何回か。
- どこから範囲外になるのか。
- 案件後、見積りはどこが誤っていたのか。
範囲が曖昧なまま、数字を分単位まで正確に見せようとしないでください。それより重要なのは、作業を正しく分解し、前提を明記し、見積りと実績を比較する循環を回し続けることです。データが十分に蓄積されれば、見積りは特定個人の経験ではなく、組織の技術力になります。
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