機械設計 #40:機構FMEA — 故障モードから設計アクションへ
機械設計 #40:機構のFMEA — 故障モードから設計アクションへ
FMEAを、設計がほぼ終わり顧客から提出を求められてから初めて開く現場は多い。全員で集まり、長い表を埋め、いくつか点数を付けてファイルに保存する。図面も、ロジックも、試験計画もほとんど変わらない。
それは書類の上で「完了した」FMEAであって、機械がよくなったとは限らない。
FMEAの本当の価値は次の連なりにある。
機能 → 故障モード → 影響 → 原因 → 管理 → 設計アクション → 検証
分析が設計判断にも新しい証拠にもつながらなければ、表は飾りになる。本稿は、機構のFMEAを機能から検証できるアクションまで、実務の順序でたどる。
FMEAは機械のリスクアセスメントの代わりにはならない。故障モードが危険源を生む、あるいは変えるときは、設計側はISO 12100などに沿った適切なリスクアセスメントとリスク低減の手順を別に行う。
1. 設計が凍結する前に始める
FMEAを開く適切な時期は、図面を発行した後ではない。次のことが分かった時点で始める。
- その機構が何をしなければならないか。
- 主な入力と出力は何か。
- 重要なインターフェースがどこにあるか。
- どの設計案がまだ変更できるか。
早すぎればデータがなく、当たり障りのない故障モードしか書けない。遅すぎれば、よいアクションでも費用がかさむか、実施する時間が残っていない。
無理のない進め方は次のようになる。
- 構想が固まった時点でFMEAを開く。
- アクチュエータ、センサ、案内構造を選定したときに更新する。
- 図面発行の前にレビューする。
- 組立と試運転で実機と突き合わせる。
- FAT、SATで出た不具合と、現地のデータから更新する。
FMEAは技術判断の生きた記録であり、ある時点で撮った写真ではない。
2. 部品表ではなく機能でスコープを選ぶ
「機械全体のFMEA」のような広すぎるスコープは、会議の焦点を失わせる。「センサ3のFMEA」のような狭すぎるスコープは、インターフェースにある故障を取りこぼす。
境界のはっきりした機能単位で選ぶ。
- 何を入力として受けるか。
- 何を出力するか。
- どの部分とエネルギー、材料、信号をやりとりするか。
- 運転者と保全担当はどこで関わるか。
- そこが機能しなくなったとき、上位のシステムはどう影響を受けるか。
スコープの例:
投入部のワークストップ機構。停止要求を受けてから、次工程が動作してよい位置にワークがあることを確認するまで。
このスコープには、機械部分、駆動、センサ、制御ロジック、ワークとのインターフェースが入る。シリンダ、弁、ブラケット、近接スイッチという、ばらばらの部品一覧より役に立つ。
3. 故障を探す前に機能を書く
故障モードとは、ある要素が機能を果たせない形のことである。機能があいまいなら、故障モードもあいまいになる。
弱い機能:
ワークを止める。
よりよい機能:
決められた荷重条件のもとで、必要な時間だけ、ストップを上昇させてワークを所定位置に保持する。
よい機能はたいてい次を含む。
- 動詞:上げる、保持する、案内する、検出する、伝える、制限する。
- 対象:ワーク、スライド、信号、エネルギー。
- 条件:モード、荷重、速度、環境、関係する状態。
- 判定基準:位置、時間、繰返し精度、力、必要な信頼性。
すべての行を長い仕様書にする必要はない。ただし、「ここで failure とは何を指すのか」 に答えられる程度には明確でなければならない。
4. 故障モード、影響、原因を分ける
しばしば混ぜて書かれてしまう三つの概念がある。
- 故障モード:機能が正しく果たされない形。
- 影響:その場、システムの側、あるいは使用者に何が起きるか。
- 原因(メカニズム):その故障モードを生じさせる理由や物理的な仕組み。
例:
| 要素 | 内容 |
|---|
| 機能 | ストップを上げてワークを所定位置に保持する |
| 故障モード | 指令の後、上昇位置に到達しない |
| 直接の影響 | 機構が下がったまま、または途中で止まる |
| 上位への影響 | ワークが位置決めされず、次工程に許可条件が出ない |
| 最終的な影響 | サイクル停止。他のロジックが状態を検出できなければ衝突もありうる |
| 原因 | エネルギーの喪失、案内のかじり、公差の誤り、摩耗、センサのずれ、コネクタの緩み、パラメーターの誤り |
「エアの喪失」は上昇機能の故障モードではなく、原因の候補である。「機械が止まった」はたいてい影響であって原因ではない。ここを正しく分けることが、アクションを正しい場所へ向かわせる。
5. 影響を複数レベルで見る
「機械が止まった」とだけ書くと、故障がどう伝わったのかという情報が失われる。
少なくとも三つのレベルで見る。
直接の影響
分析している要素や機構そのもので何が起きるか。
例:ストップが上がりきらない、機構が流れる、位置信号が変化しない。
上位への影響
隣接する機構や機能への影響。
例:ワークが固定されない、ロボットに許可条件が出ない、後続の動作がタイムアウトする。
最終的な影響
使用者、製品、機械、運転目標への最終的な影響。
例:ライン停止、製品の位置ずれ、設備の損傷、あるいはリスクアセスメントで扱うべき危険源の発生。
影響の連なりを追うことで、生産性だけを失う故障と、品質や安全に届く故障とを見分けられる。
6. インターフェースの故障を探す
現地で起きる不具合の多くは、一つの部品の中だけで完結していない。部分と部分の境界にある。
- アクチュエータと負荷。
- ワークと位置決め面。
- センサと検出対象。
- ケーブルとコネクタ。
- PLCの指令とフィードバック。
- レシピと機械の設定。
- 運転者とHMI。
- 摩耗部品と、交換時に基準とするデータム。
境界を通る流れをたどると見つけやすい。
| 流れ | 問い |
|---|
| エネルギー | 不足、過大、中断、残留のとき何が起きるか。 |
| 材料・ワーク | 機種違い、向き違い、かじり、変形、ワークなしのときはどうか。 |
| 動き | 動かない、遅い、行き過ぎ、流れる、振動するときはどうか。 |
| 信号 | 喪失、誤り、遅れ、断続、ありえない値のときはどうか。 |
| データ | レシピ違い、古いパラメーター、機種の不一致のときはどうか。 |
| 人 | 誤組立、誤交換、見えにくい、手が届かないときはどうか。 |
インターフェースのレビューは、部品表のレビューが素通りする故障モードを見つけてくれる。
7. 防止の管理と検出の管理は違う
二つの管理は目的が異なる。
防止の管理
原因が起きる可能性を下げる。
例:
- 逆向きに組めない形状。
- 十分な剛性と回り止めを持つ案内。
- 標準化した段取り部品。
- 適切なロックの付いたコネクタ。
- 公差と材料の管理。
- 交換したときに正しい位置に収まる摩耗部品の設計。
検出の管理
最終的な影響になる前に、故障モードまたは原因を見つける。
例:
- 二つの動作状態がつじつまの合う組合せかを確認する。
- 機種やレシピの不一致を確認する。
- 妥当性確認の中で特性値を測る。
- 自動運転の前に組立の誤りを確認する。
- 第一報のアラームと診断に必要な文脈を保持する。
よい検出があっても、故障そのものはなくならない。影響が重大なら、最初に取るべきはやはり、危険源をなくす、結果を小さくする、あるいは設計で発生の可能性を下げることであって、センサを一つ足して「リスクは処理済み」とすることではない。
8. 合計点で重大な故障を隠さない
一つにまとめた数値は素早く順位を付けられるように見えるが、正確さの錯覚も生む。
よくある問題:
- 結果がまるで違う二つの故障が、同じ点数になる。
- データがない段階で、発生度の点数が感覚で付けられる。
- 「センサがあるから」というだけで検出度が高く評価される。
- 合計点のしきい値を使って、重大な影響を素通りさせる。
- アクションの後、証拠がまだないのに点数だけ下げる。
社内で特定の評価方法を採用しているなら、承認された手引きや手順のとおりに使う。独自の点数表を作って、それをAIAG/VDAやIECだと呼ばない。
点数より大切なのは、論の筋道の質である。
- 機能は明確か。
- 故障モードは適切なレベルで書かれているか。
- 影響は最終的な影響まで追えているか。
- 原因は、アクションを生み出せるほど具体的か。
- いまの管理には証拠があるか。
- そのアクションは本当に設計を変えるか。
9. アクションは設計か証拠を変えるものでなければならない
弱いアクション:
- 「もう一度確認する」。
- 「組立時に注意する」。
- 「様子を見る」。
- 「定期保全」。
いずれも、誰が、何を、いつまでに行い、どの結果をもって有効と示すのかを述べていない。
よりよいアクションは、たいてい次の三つのいずれかになる。
設計を変える
- 案内構造やメカストッパを変更する。
- アクチュエータに掛かる不利な荷重を減らす。
- 逆向きに組める可能性を形状でなくす。
- 摩耗部品を主たる位置決めデータムから切り離す。
- 見やすさと保全の作業空間を改善する。
管理を変える
- 指令とフィードバックの間に整合性の確認を入れる。
- 診断のために第一報のアラームを保持する。
- 機種と段取り部品の不一致を防ぐ。
- タイムアウトを推測ではなく試験データから決める。
証拠を作る
- 境界条件で繰返し精度を試験する。
- 許容する荷重と圧力の範囲で動作時間を測る。
- 妥当性確認の中で、意図的に誤って組んでみる。
- 摩耗部品を交換し、データムを復元できることを確かめる。
各アクションには次を持たせる。
- 担当者。
- 期限。
- 具体的な成果物または変更。
- 検証の方法。
- 結果と証拠。
- 完了後の再評価。
検証していないアクションは、まだ開いたままのアクションである。
10. 例:ワークストップ機構のFMEA
次の機能を持つ機構を考える。
必要な荷重と時間の条件のもとで、ストップを上昇させ、次工程の前にワークを位置決めする。
分析の一部は次のように書ける。
故障モード1:上昇位置に到達しない
- 直接の影響:ストップが下がったまま、または途中で止まる。
- 上位への影響:ワークが位置決めされない。
- 最終的な影響:サイクル停止。確認のロジックが不十分なら、次工程が無効な状態を受け取ることもある。
- 見るべき原因:供給エネルギーの不足、案内のかじり、誤組立、摩擦の増加、出力が動作していない。
- 防止:案内、横荷重、公差、回り止め、組みやすさを見直す。
- 検出:指令後の状態確認、試験に基づくタイムアウト、そのときの状態の記録。
- アクションの例:境界の荷重条件でストロークを試験し、基準を満たさなければ案内の設計を変える。
故障モード2:位置に到達した後で流れる
- 直接の影響:ストップが保持位置から外れる。
- 上位への影響:工程の途中でワークが動く。
- 最終的な影響:品質不良、かじり、衝突。
- 見るべき原因:エネルギーの喪失、漏れ、前提を超える荷重、自重で下がる機構、機械的な保持がない。
- アクション:エネルギーを失ったときの状態をリスクアセスメントから定める。その故障状態が許容できないなら構想を変える。
故障モード3:フィードバックは到達を示すが実際の位置が違う
- 直接の影響:ロジック上の状態が機械の実際と合わない。
- 上位への影響:許可条件が誤って出る。
- 最終的な影響:位置決めされていないワークのままサイクルが進む。
- 見るべき原因:検出対象の緩み、センサのずれ、センサ取付具の変形、配線やロジックの誤り、検出範囲が広すぎる。
- 防止:検出対象と取付具を動かないように設計し、調整は管理された範囲で行えるようにする。
- 検出:整合性の確認、妥当性確認での意図的なずらし試験、試運転と立上げでの実物確認。
故障モード4:動作はするが時間が延びていく
- 直接の影響:ストロークが遅くなり、タイムアウトに近づく。
- 上位への影響:サイクルが安定せず、アラームが繰り返す。
- 最終的な影響:生産量の低下と、再現しにくい停止。
- 見るべき原因:摩耗、汚れ、摩擦、エネルギー源の劣化、保全の誤り。
- アクション:監視すべき特性値と点検の限度を決め、保全箇所に手が届くよう設計する。
この例に、寸法、圧力、優先度の点数を仮定する必要はない。故障がどう設計アクションと妥当性確認につながるかを示すことが目的である。
11. FMEAを他の成果物へつなげる
FMEAは、表計算ファイルの中に孤立していないときにだけ力を持つ。
| FMEAで分かったこと | 更新すべき成果物 |
|---|
| 機能や要求が不明確 | 要求仕様 |
| 公差やインターフェースに起因する故障 | 図面、公差の積み上げ、設計レビュー |
| ポカヨケが必要な故障 | 機械設計、段取り部品、作業手順書 |
| 診断が必要な故障 | アラーム一覧、HMI、診断の設計 |
| 摩耗に起因する故障 | 保全計画、予備品・摩耗部品一覧 |
| 証拠が必要な故障 | DVP、FAT/SAT、妥当性確認の手順書 |
| 危険源に関わる故障 | 機械のリスクアセスメントと安全の妥当性確認 |
| 変更によって生じた故障 | 変更管理と改訂履歴 |
どのアクションも、変更が実際に管理されている場所を指していなければならない。FMEAが「確認を追加する」と書いているのに試験手順書が変わらなければ、その輪は閉じていない。
12. FMEAを更新するタイミング
日程だけで更新するのではなく、はっきりした引き金を決めておく。
- 構想や機構の構成が変わったとき。
- アクチュエータ、センサ、材料、供給元が変わったとき。
- 機種やレシピが増えたとき。
- 速度、荷重、環境が変わったとき。
- ロジック、タイムアウト、アラームを直したとき。
- 摩耗部品や保全の基準を変えたとき。
- FAT、SATで不具合が出たとき。
- 現地の故障、ヒヤリハット、品質の申し出があったとき。
- 以前のアクションが完了し、新しい証拠が得られたとき。
引き金ごとに次に答える。
- どの機能が影響を受けるか。
- どの故障モード、原因、管理が変わるか。
- 新しいインターフェースが生じていないか。
- リスクアセスメントや妥当性確認を更新する必要はないか。
改訂日付だけを変えない。理由と変更の範囲を書き残す。
13. 機構FMEAのレビュー用チェックリスト
- スコープと境界は定義されているか。
- エネルギー、材料、信号、データ、人のインターフェースを見たか。
- 機能に動詞、対象、条件、適切な判定基準があるか。
- 故障モードが影響や原因と分けて書かれているか。
- 直接、上位、最終の影響がそろっているか。
- 防止の管理と検出の管理が区別されているか。
- いまの管理に証拠があるか、それとも前提にすぎないか。
- 重大な故障が合計点の陰に隠れていないか。
- 各アクションに担当者、期限、成果物、検証があるか。
- 閉じたアクションに証拠が添えられているか。
- 図面、ロジック、アラーム、保全、試験手順書が対応して更新されたか。
- 危険源に関わる故障がリスクアセスメントへ引き渡されたか。
- 変更点と現地での学びがFMEAへ戻されているか。
まとめ
よいFMEAは、表の行数では測れない。そこから生まれた判断の質で測るものである。
機能から始め、故障モード・影響・原因を分け、インターフェースで故障を探し、防止と検出を分け、すべてのアクションに検証を求める。そうしたとき、FMEAは技術者の経験と、図面、ロジック、アラーム、保全計画、試験計画とをつなぐ橋になる。
重要な故障モードが「もう一度確認する」で終わっているなら、仕事はまだ終わっていない。次に問うべきはこれである。
設計の何が変わるのか。そして、その変更が有効だという証拠は何か。
公開参考資料
- IEC 60812:2018 — Failure modes and effects analysis (FMEA and FMECA): https://webstore.iec.ch/en/publication/26359
- ISO 12100:2010 — Safety of machinery — Risk assessment and risk reduction: https://www.iso.org/standard/51528.html
- AIAG & VDA FMEA Handbook: https://www.aiag.org/training-and-resources/manuals/details/FMEAAV-1
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