機械設計 #42:自動機のFAT/SAT — 「動けばよい」では受入れにならない
「機械は問題なく動く」は受入れ方法ではありません。どの要求を、どの条件、サンプル、証拠で確認したかを示さないため、引渡し時に不足情報が議論になります。
FATとSATは、要求 → 試験ケース → 測定可能な基準 → 実結果 → 証拠 → 偏差処置という追跡できる連鎖になって初めて機能します。通常運転、異常、復旧、統合、安全、文書、設置後状態を含めます。
本記事は概念的なフレームワークです。契約要求、リスクアセスメント、安全妥当性確認、現地法令、顧客の正式受入れ手順に代わるものではありません。
1. FAT、FIT、SAT、SIT、コミッショニングを分ける
FATはサプライヤー工場で組み立てた機械を確認します。FITはユニットや機能の適合、SITはステーション、ユーティリティ、ソフトウェア、インターフェースの統合、SATは顧客サイトへ設置した機械を確認します。コミッショニングは調整と運転準備であり、自動的に受入れと同じではありません。
それぞれの目的、環境、責任者、開始条件、終了条件、証拠を文書化します。工場になかったユーティリティ、設置、アクセス、上流・下流の挙動をFATだけで証明できません。
2. 要求トレーサビリティから始める
各受入れ項目を安定した要求IDへ結びます。サイクル時間、精度、容量、騒音、ユーティリティ、段取り、安全機能、データ、保全性、文書などが対象です。
要求、設計参照、試験、基準、結果、証拠、偏差、担当、処置をマトリクスにします。要求がない試験、試験経路がない要求があれば、受入れ定義は未完成です。
3. 受入れ基準は測定可能にする
「安定」「良品」「保全しやすい」だけでは弱い基準です。サンプル、設定、時間、速度、荷重、公差、測定方法、計器精度、繰返し数、合否境界を決めます。
例えば、23 ± 3 °C、0.50 ± 0.02 MPaで60分に120個の合格品、95%のサイクルが30秒以下、安全機能故障ゼロ、と記述します。値は契約で決めますが、同じプロトコルから双方が同じ判定へ到達できることが重要です。
4. 一つの試験ケースに必要な項目
ID、要求、目的、機械・ソフトウェア版、前提条件、サンプルとレシピ、計器、手順、期待結果、受入れ基準、実結果、証拠リンク、試験者、日付、偏差、最終処置を含めます。
再現できる文脈を残します。レシピ、荷重、時刻のない写真だけでは不十分です。スクリーンショットには状態とデータ源、測定には計器IDと校正状態を記録します。
5. 前提条件は結果と同じくらい重要
試験前に、機械構成、ガード、ユーティリティ、ソフトウェア、レシピ、治工具、サンプル、環境、ネットワーク、安全設定、計器校正を確認します。欠けた条件で試験を実施せず、「未準備」と記録します。
受入れ問題の多くは前提条件の違いです。異なる圧力、良すぎるサンプル、エンジニアの手動補助、仮の強制出力などを見える化します。
6. FATで確認する内容
機能シーケンス、定義条件でのサイクル・処理量、品質結果、段取り、アラーム・復旧、ユーティリティ、データ、保全アクセス、文書、予備品、安全機能試験を含めます。
通常と異常を代表条件で行います。詰まり、ワーク欠品、ユーティリティ喪失、センサー故障、再起動を示し、既知状態へ戻り、安全条件をバイパスしない証拠を残します。
7. FATで証明できないこと
設置、基礎剛性、現地の排気・空気品質、顧客ネットワーク、上流・下流統合、現地オペレーター、長時間シフト、設置後安全境界はFATだけでは証明できません。
これらをSATまたはコミッショニング項目にします。工場で似た条件が動いたからといって、現地項目をFAT合格にしません。
8. 出荷前に引渡しベースラインを閉じる
FATで試験した機械構成を凍結します。機械図面、PLC・ロボットプログラム、HMI、レシピ、パラメーター、安全設定、電気図、ファームウェア、ネットワーク図、校正記録、未完了偏差を含めます。
各項目にリビジョンと、可能ならチェックサムなどの同一性を付けます。搭載、梱包、仮設、設置時変更を区別します。「最新版ファイル」のUSBだけではベースラインになりません。
9. SATは設置後状態から始める
サイトで試験前に、基礎、レベル、ガード、ユーティリティ、配線、ネットワーク、インターフェース、治工具、サンプル、環境、ソフトウェア版を記録します。FATとの差分を明示します。
設置・統合に影響される試験を繰り返し、停電・空気圧喪失復旧、安全区域、材料流れ、データ受渡し、合意したサイト条件での連続運転を確認します。
10. サイト性能には共通条件が必要
サプライヤーと顧客は、サンプル品質、材料供給、ユーティリティ、シフト、要員、上下流状態、測定方法、許容調整を合意します。前提条件不成立による再試験の責任と証拠も決めます。
完全な工場サンプルと混在した現地品質を直接比較しません。機械能力と工程能力を分けます。
11. FIT/SITで責任の空白を見つける
ロボット、コンベヤ、治具、機械が個別仕様を満たしても、組合せのハンドシェイクが失敗することがあります。要求、許可、品種、タイミング、故障、復旧の交換をSITで確認します。
各インターフェースの責任者を決め、どちらが証拠を出すかを明記します。「相手機械が応答しなかった」は症状であり、要求、応答、タイムアウト、状態、復旧責任をプロトコルへ残します。
12. 安全妥当性確認はFATの一行ではない
安全機能には、仕様、試験方法、故障条件、リセット・再起動、停止性能、証拠が必要です。「Safety passed」というチェックだけでは、ガード、インターロック、非常停止、エネルギー遮断、安全動作、予見故障の妥当性を置き換えません。
FAT/SATと調整しても、技術責任と受入れ証拠は明確に分けます。
13. 偏差を管理し、「注記付き合格」を放置しない
偏差には要求、実状態、リスク・影響、暫定対策、担当、期限、処置、完了証拠を書きます。承認済み、修正済み、期限付き延期、却下などへ分類します。
「Pass with note」は永久状態ではありません。期限、レビュー日、完了条件を持たせ、ベースラインが変われば再試験範囲を評価します。
14. 影響に応じて再試験する
再試験は常に全FATでも、ボタン一つの再確認でもありません。変更した故障経路、要求、インターフェース、安全機能、レシピ、データを評価します。
対象試験、関連シーケンス、ステーション全体、統合ライン、安全再検証の範囲を根拠付きで決め、偏差とリビジョンへリンクします。
15. ゴールデンサンプルと試験データにも版を付ける
ゴールデンサンプル、治具、基準測定、レシピ、ソフトウェア、データセットを識別します。サンプル変更や計器調整だけで合格することがあります。
サンプルID、状態、測定方法、受入れ版を保存し、製品・工程変更時に代表性を再確認します。
16. 引渡しはUSBを渡すだけではない
承認済みベースライン、図面、ソース・実行版、パラメーター、保全資料、予備品、校正、アラーム、教育、偏差台帳、バックアップ・復元手順、将来変更の責任を引き渡します。
顧客が実行版を特定し、既知良品を復元し、故障復旧し、受入れ証拠を見つけられることを示します。運転・保全・復旧・変更の能力が移管されて初めて引渡し完了です。
17. FAT/SATプロトコルチェックリスト
- [ ] FAT、FIT、SIT、SAT、コミッショニングの目的を分けた。
- [ ] 全試験が安定した要求へ追跡できる。
- [ ] 条件、測定、繰返し、公差、合否境界を定義した。
- [ ] 前提条件と計器状態を記録する。
- [ ] 通常、異常、復旧、統合、安全を含む。
- [ ] FATの限界とSAT責任を明記した。
- [ ] 出荷前に試験構成をベースライン化した。
- [ ] SAT前に設置後差分を確認する。
- [ ] 偏差に担当、期限、処置、完了証拠がある。
- [ ] 再試験範囲が影響に基づき追跡できる。
- [ ] 安全妥当性に独立した技術証拠がある。
- [ ] 引渡しで運転、保全、バックアップ、復元、変更能力を移管する。
まとめ
受入れは、機械が動くという感覚ではありません。定義した条件で要求を満たし、偏差を管理し、試験構成を追跡できる証拠です。
要求から基準、結果、証拠、処置の連鎖を作ります。工場証明とサイト証明を分け、統合責任を明確にし、安全機能を独立して検証し、引渡しベースラインを閉じます。
こうしたFAT/SATは支払いの場へ議論を先送りせず、運転、保全、復旧、変更が可能な機械を引き渡します。
18. 試験記録を再利用できる形にする
試験記録は、合格を示すためだけの写真集にしません。試験ID、要求ID、設備リビジョン、ソフトウェア版、サンプルID、計器ID、実施者、日時、環境条件、結果、証拠リンクを一つの記録へまとめます。後から別の担当者が同じ結果を再現できる粒度が必要です。
画面キャプチャだけを残すと、値の単位や測定条件が分からなくなります。測定値、許容範囲、判定ロジック、使用したレシピを同じ記録に置き、データの出所と変更履歴を追跡できるようにします。自動取得データは、ファイル名だけでなくタイムスタンプと設備状態を持たせます。
19. 受入れ指標を運転指標へつなぐ
FAT/SATの結果は、現場へ引き渡した後の運転指標とつながっていなければなりません。サイクルタイム、稼働率、停止理由、初回合格率、復旧時間、アラーム再発率など、要求から選んだ指標を引渡し時のベースラインとして記録します。
このベースラインがあれば、導入直後の調整と設計不具合を区別できます。目標値を下回ったときは、機械、材料、作業手順、ユーティリティ、ソフトウェアのどこに差分があるかを切り分け、変更を行った場合は関連する受入れ試験を再実行します。
20. オペレーターと保全担当へ能力を移す
引渡し会議では、資料を配るだけでなく、運転、段取り、異常復旧、バックアップ復元、部品交換、校正、変更申請を実演します。担当者が実際に操作し、記録を残し、レビューを受けることで、教育の完了を証拠化できます。
教育項目には、禁止操作、残留エネルギー、再起動条件、安全確認、アラームの優先順位、エスカレーション先を含めます。誰が何をいつまでにできる必要があるかを役割表へ落とし込み、未完了項目は偏差台帳へ移します。
21. 最終レビューで閉じる質問
最終承認の前に、次の質問へ証拠付きで答えます。要求と合否基準は承認済みか。FATからSATまでの構成差分は説明できるか。未解決の偏差に担当と期限があるか。安全機能と異常復旧を独立して確認したか。顧客が承認済み版を復元できるか。変更時に再試験範囲を決められるか。
回答が「担当者の記憶」や「現場で見れば分かる」に依存しているなら、受入れはまだ閉じていません。証拠の場所、版、責任者、次の処置を記録し、第三者が追跡できる状態にしてから承認します。
公開参考資料
22. 証拠のレビューを短い周期で行う
FATやSATの最後にまとめて証拠を確認すると、欠落したログや曖昧な写真が残ります。要求、試験結果、偏差、再試験、承認者を週次またはゲートごとにレビューし、次の試験へ進む条件を明確にします。早いレビューは、現場での手戻りと受入れ遅延を減らします。
- [ ] 要求IDと試験IDが一致している。
- [ ] 証拠に版、日時、条件、実施者がある。
- [ ] 偏差の処置と再試験が追跡できる。
- [ ] 承認済みベースラインが証拠の対象と一致している。
証拠を集める順序もプロトコルに記録し、後から結果だけを貼り替えないようにします。 記録を閉じます。
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