機械設計 #84:3Dモデルから製作用図面へ — 2DをCADの写真にしない
製作用図面は境界が変わっても読め、作れ、検査でき、保全でき、安全でなければならない。
機能から始める
投影、記号、形状、注記を決める前に、入力状態、期待結果、許容限界、故障症状、測定方法を書く。不明点を大きな係数に隠さず、担当と試験を決める。
基本チェック
- モデルに現れない製造上の機能: モデルが語れないことを挙げる。どの面がデータムか、どの公差が効くか、何の材料で作るか。
- データム、公差、はめあい、表面の要求: データム、公差、はめあい、表面の要求を、部品が働く状態から選んで図面に記す。
- 材料、処理、工程、素材: 材料、熱処理・表面処理、工程、素材の状態を明記する。いずれもモデルには載っていない。
- 投影図、断面図、詳細図、見えない接点: 外から見えない接点も定義されるように、投影図、断面図、詳細図を選ぶ。
- 検査の方法と、供給元の工程能力: 各要求をどう測るかを示し、供給元がそれを測れるかを発行前に確認する。
- モデル、図面、部品表、改訂の同期: モデル、図面、部品表、改訂を同じ版にそろえ、送る前にそれを確認する。
故障モード
| 故障モード | 症状 | 確認 |
|---|
| 意味が曖昧 | 加工・検査が違う | 規格と証拠を確認 |
| 接点を省略 | 組立・保全で誤り | 実工程を確認 |
| 文書が不一致 | 名称は正しいが改訂違い | 全資料を基準化 |
三次元モデルが言えることと、言えないこと
三次元モデルが表すのは呼び寸法の形状、つまり理想的な形と、まったく誤差のない寸法です。しかし誤 差なく作られる部品は存在しません。部品が使えるかどうかを決める要素は、モデルの外にあります。
| 三次元モデルが言えること | 図面(またはモデル内の注記)でしか言えないこと |
|---|
| 形状と呼び寸法 | 各寸法の公差 |
| 面どうしの位置関係 | データムと、その優先順位 |
| 質量と重心(材料を割り当てた場合) | 具体的な材料、質別、要求する硬さ |
| 組立時の干渉とすきま | 表面粗さの要求と加工の筋目の方向 |
| — | 表面処理と、皮膜を付けない範囲 |
| — | 検査の方法と合否の基準 |
| — | 改訂、適用範囲、承認者 |
短く言えば、モデルは「どんな形か」に答え、図面は「どれだけずれても使えるのか、どう測るのか、誰が責 任を持つのか」に答えます。
二次元図面はモデルの写真ではありません
標準の四面図を出力して寸法を並べることは、写真を作る作業であって図面を作る作業ではありません。次の 判断はいずれも伝達の判断であり、三次元設計の操作ではありません。
- 正面図を、設計ソフトの既定の向きではなく加工時の姿勢で選ぶこと。
- かくれ線を見える線に置き換えるため、どこで切るかを決めること。
- 座標原点ではなく、機能上のデータムから寸法を出すこと。
- 読む人が意図を読み取れるよう、機能ごとに寸法をまとめること。
形は正しくても座標原点から寸法を出した部品は、積み上げてはいけない場所に誤差を積み上げます。しかも 組み立てるまで誰も気付きません。
図面をモデルへ動的に連動させるときの三つの落とし穴
| 落とし穴 | 結果 | 防ぎ方 |
|---|
| モデルを直したが図面を再発行していない | 現場は古い図面で作る。図面どおりだが意図とは違う部品ができる | モデルと図面を同じ改訂で発行する手順にする |
| 連動した寸法の上に手入力の数値を重ねる | モデルが変わっても図面の数値が動かない | 数値の上書きを禁止し、寸法は形状から取らせる |
| モデルを正とする運用なのに宣言していない | 現場が公差をどこで読むのか分からない | モデルを正とするなら、モデル内の注記を完備し、書類にも明記する |
三次元モデルを正の文書とすることは正当な選択です。ただし宣言された選択であり、公差の情報がモデル に完備されていることが条件です。「モデルがあるのだから」という既定の扱いではありません。
受け渡し形式:それぞれ失うものが違います
形状データを加工先へ渡すとき、形式によって相手が受け取るもの、そして失うものが決まります。
| 形式の種類 | 保たれるもの | 失われるもの |
|---|
| 設計ソフトの固有形式 | 履歴、拘束条件、モデリングの手順 | 相手も同じソフトの同じ版を持っている必要がある |
| ソリッドの交換形式 | 加工プログラムに使える正確な形状 | 履歴、拘束条件、設計の意図 |
| 三角形メッシュの形式 | おおよその形。試作品の造形や干渉確認には十分 | 面の精度。加工には使えない |
| 板取り用の二次元形式 | 平らな外形 | 板厚、曲げの向き、平面上にないものすべて |
この表で最も費用のかかる誤りは、三角形メッシュを加工に使うことです。曲面が多数の小さな平面 で近似されるため、部品には面の継ぎ目が残り、誤差は出力時のメッシュの細かさに左右されます。出力 した本人がまず見ない設定です。
変換で必ず失われる三つ。図面で補います
- 公差。 一般的な交換形式は呼び寸法の形状だけを運び、公差は運びません。図面か、モデル内の注
記で示す必要があります。
- 単位と座標原点。 静かに事故を起こす原因です。開いたら形は正しいのに寸法が千倍違う、あるい
は原点が別の場所にある。単位は必ず添付文書に書き、既定値に頼らないでください。
- モデリングの意図。 受け取る側は、どの面が基準か、どの寸法が従属かを知りません。後から修正
する部品では、意図を失うことは一から作り直すことを意味します。
送る前に確認し、受け取ったらすぐ確認する
数分でできる短い手順で、事故の大半を止められます。
| 段階 | 何を確認するか |
|---|
| 送る前 | 出力したファイルを別のソフトで開き直し、形が保たれているか見る |
| 送る前 | 出力データの質量または体積を、元のモデルと比べる |
| 送る前 | 開いた面、重なった面、離れた立体がないか確認する。ソリッド出力でよくある不具合 |
| 受け取ったら | ファイル上で任意の三つの寸法を測り、図面と比べる |
| 受け取ったら | プログラムを組む前に単位と改訂を確認する |
体積の比較は最も安く、最も多くを捕まえる確認です。単位の誤り、面の欠落、離れた立体は、いずれも 体積をすぐにずらします。
MINATA発行チェック
- [ ] 機能、境界、故障症状を記載した。
- [ ] 基準、責任、誤操作防止が明確である。
- [ ] 六項目に証拠と合否限界がある。
- [ ] 製造、組立、検査、保全を実機で試した。
- [ ] 改訂、サプライヤー、構成記録が一致する。
良い設計は、製造、運転、保全、変更を通過する前提の連鎖である。製作用図面では、結果が継続する証拠を残すことがMINATAの基準である。
よくある質問
三次元モデルがあれば二次元図面は不要ですか
モデルを正の文書とし、公差、データム、表面の注記を完備している場合を除き、必要です。モデルが持ってい るのは通常、呼び寸法の形状だけです。公差、データム、表面粗さ、材料、検査要求には、書く場所が必要です。
モデルの座標原点から寸法を出してよいですか
避けてください。寸法は機能上のデータム、つまり組み付けたときに部品が実際に当たる面から出します。座標 原点を基準にすると、管理していない場所に誤差が積み上がり、図面が組付けの意図を伝えられなくなります。
モデルを直したら図面も再発行しますか
再発行します。しかも同じ改訂として出します。動的に連動した図面で最も多い不具合がここです。モデルは変 わっているのに現場の印刷物は古いままで、できた部品は図面どおりでも現在の意図とは違います。
図面上で寸法の数値を手で直してよいですか
いけません。数値は形状から取ります。手で上書きすると、形とつながらない数値ができ、次にモデルが変わっ てもその数値は動きません。図面は自分自身と矛盾し、しかも見ただけでは分かりません。
よくある質問(続き)
加工先にはどの形式を送りますか
加工先と取り決めたソリッドの交換形式です。固有形式が使えるのは、双方が同じソフトの同じ版を持つ 場合だけです。三角形メッシュを加工用に送ってはいけません。
三角形メッシュが加工に向かないのはなぜですか
曲面が多数の小さな平面で近似されるためです。部品には面の継ぎ目が残り、誤差は出力時のメッシュの 細かさで決まります。出力した本人がまず見ない設定です。この形式は試作品の造形や干渉確認のための ものです。
公差は三次元データの中にありますか
モデルを正の文書とし、公差の注記を入れている場合を除き、ありません。一般的な交換形式は呼び寸法 の形状だけを運びます。公差は図面か注記に置きます。
送る前の最も安い確認方法は何ですか
出力データの体積または質量を、元のモデルと比べることです。単位の誤り、面の欠落、離れた立体はい ずれも体積をずらすため、一つの数値で複数の不具合を捕まえられます。
顧客から受け取ったデータでまず確認することは
単位と、図面に対する任意の三つの寸法です。形は正しいのに単位が違うファイルは最も静かな不具合で、 材料を切ってから初めて表面化します。
まとめ
3Dモデルから製作用図面は、書類を整えるための手続きではない。設計意図を、繰り返し製作でき、組み立てられ、測定できる結果へ変えるための手段である。良い図面は、設計者がそばで説明しなくても伝わる。情報の構成そのものがその役割を果たさなければならない。
現場のための早見表
判断は、状況・表し方・目的を具体的に対応づけると下しやすくなります。
| 状況 | 表し方・制御の仕方 | 目的 |
|---|
| 呼び形状 | 改訂を固定した3Dモデルから取る | 投影図を手で描き直さない |
| 製造の意図 | データム、公差、粗さ、処理を補う | 2Dだけで発注できるようにする |
| 検査の特徴 | 目的を持った断面と部分拡大図を作る | 現場でQCが測れるようにする |
この表は、プロジェクトに適用される規格を置き換えるものではありません。「3Dモデルから製作図へ」を、製造・組立・検査のときに答えられる問いへ変えるためのものです。
実際の場面
CADから三面図を自動で出しただけでは、まだ形状を移しただけです。発行の前に問うべきことは、現場はどの面で位置決めして掴むのか、QCはどの特徴を測るのか、材料と表面処理はどこに書いてあるのか、の三点です。どれか一つでも欠ければ、見た目の整ったPDFでも、まだ製作図ではありません。
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