機械設計 #93:樹脂部品の抜き勾配 — 型離れと機能を両立する
樹脂部品の抜き勾配は境界が変わっても機能、精度、製造、検査、保全を守らなければならない。
形状より先に機能
セット、接合、抜き勾配、肉厚を決める前に、入力状態、期待結果、合否限界、故障症状、測定方法を書く。全ての値と変更に担当を付ける。
基本チェック
- 型開きの方向と、機能面: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- 材料、しぼ、深さに応じた抜き勾配の値: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- 肉厚と、ひけまたは反りの危険: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- パーティングライン、突き出し、外観: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- 成形後の寸法検査: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- 型の修正、試作、合否の証拠: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
| 故障モード | 症状 | 確認 |
|---|
| セット・接合が曖昧 | はめあい・交換が違う | 識別と組立機能を監査 |
| 工程を省略 | 反り、すきま、ひけ、ずれ | 工程を確認・測定 |
| 文書が不一致 | 名称は正しいが改訂違い | 全資料を基準化 |
型開きの方向を先に決め、ほかはすべてその後に決めます
抜き勾配をいくつにするかを論じる前に、型開きの方向とパーティングラインを固めます。この二つが、 どの面に勾配が必要か、どこにパーティングラインの跡が残るか、スライドが必要かどうかを決めます。
実務上の順序です。
- 型開きの方向を選ぶ。多くは、部品が最も抜けやすく、補助機構が最も少ない方向です。
- パーティングラインを描き、どの面を横切るかを見る。跡はそこに残ります。
- 型開きの方向に平行な面をすべて印を付ける。それが勾配の必要な面です。
- 型が開くときに引っ掛かる部分(アンダーカット)を洗い出し、対処を決める。
一番目を飛ばして面ごとに勾配を足していくのは順序が逆であり、部品が抜けないと分かった時点で全部やり直す ことになりがちです。
必要な勾配は三つの要素で変わります
共通の数値はありません。必要な角度は次の要素とともに大きくなります。
| 要素 | 影響 |
|---|
| 型開き方向の深さ | 深いほど大きな勾配が必要。壁面での摩擦の合計が増えるため |
| 型面の仕上げ | しぼや粗い面は、磨いた面よりかなり大きな勾配が必要 |
| 樹脂と収縮率 | 収縮が大きい樹脂ほどコアに強く抱き付き、より多くの勾配が必要 |
最も見落とされやすいのはしぼのある面です。平滑な面を前提に十分な勾配を取った部品に、後から顧客の要 望でしぼを入れると、その勾配では足りなくなり、突き出しのときに面が擦れて傷みます。しぼを入れる面がある なら、形状を固める前に、そのしぼに必要な最小の勾配を型メーカーへ確認します。
実際の数値は樹脂、深さ、しぼの種類で決まります。型の承認の場ではなく、設計の段階で型メーカーと合意して ください。
アンダーカット:四つの対処のうち、三つは費用がかかります
| 引っ掛かる部分 | 対処 | 費用 |
|---|
| なくせる場合 | 設計を変えてアンダーカットをなくす | 最も安い。常に最初に試す |
| 側面にあり形が単純 | スライド | 機構が増え、型の価格が上がる |
| 内側の面にある | 傾斜コア | 同様であり、動ける範囲にも制限がある |
| 浅く、樹脂が十分に柔らかい | 無理抜き | 柔らかい樹脂と非常に浅いアンダーカットに限る。試作で確認が必要 |
最初に問うべきは常に表の一行目、補助機構が不要になるよう設計を変えられないかです。側面の穴を上面へ 移すだけで済むこともあり、スライド一式を節約でき、成形の周期も短くなります。
抜き勾配はどれだけ必要か、シボが数値をどう変えるか
型開きの方向が決まったら、次は各面をどれだけ傾けるかです。抜き勾配が小さすぎると部品がコアに 張り付き、突き出し時に擦れます。大きすぎると肉厚がずれ、材料も無駄になります。
平滑面の実用的な目安をいくつか挙げます。
- 片面0.5度:ほとんどのエンジニアリングプラスチックで、平滑で浅い壁の最小値。
- 片面1〜2度:一般的で安全な範囲——突き出しが容易で擦れが少ない。
- 深い壁ほど多く必要:深い壁はコアを強く掴むので、深さに応じて勾配を増やします。
シボは必要勾配を急速に増やします
シボ(梨地、装飾マット)を付けた面は、模様の山が型壁に食い込むため、平滑面よりはるかに強く型を 掴みます。よく使う目安は、基本勾配に加えてシボ深さ0.025 mmごとに約1度を足すことです。
| 表面 | 見込む勾配 |
|---|
| 平滑・浅い壁 | 片面0.5〜1度 |
| 平滑・深い壁 | 片面1.5〜3度 |
| 浅いシボ | 基本+約1〜2度 |
| 深いシボ(粗い梨地) | 基本+3〜5度以上 |
図面への影響は、シボを早めに、抜き勾配と同時に決めることです。勾配を確定してから深いシボを 足すと、部品が型を掴んで突き出し時に擦れ、型直しが必要になります——最も高くつく修正です。意匠 仕上げが要る箇所には、シボ番号(型製作者のシボ見本による)を図面に明記します。
MINATA発行チェック
- [ ] 機能、境界、セットまたは形状、故障症状を記載した。
- [ ] 基準、責任、工程、誤操作防止が明確である。
- [ ] 六項目に証拠と合否限界がある。
- [ ] 製造、組立、検査、保全を実機で試した。
- [ ] 改訂、サプライヤー、材料、構成記録が一致する。
良い設計は、製造、運転、保全、変更を通過する前提の連鎖である。樹脂部品の抜き勾配では、精度と機能が信頼できる証拠を残すことがMINATAの基準である。
よくある質問
抜き勾配は何度必要ですか
共通の数値はありません。型開き方向の深さ、型面の粗さやしぼ、樹脂の種類で決まります。しぼのある面は磨い た面よりかなり大きな勾配が必要で、ここが最も見落とされます。実際の数値は早い段階で型メーカーと合意しま す。
型開きの方向を先に決めるのはなぜですか
どの面に勾配が必要か、パーティングラインの跡がどこに残るか、スライドが必要かを決めるためです。方向を決 める前に面ごとの勾配を足していくのは順序が逆であり、たいてい全部やり直しになります。
設計が終わってから顧客がしぼを求めてきたら
勾配を見直します。しぼのある面は平滑な面より大きな勾配が必要なので、足りていた角度が足りなくなり、突き 出しのときに面が擦れます。これは外観だけの変更ではなく、形状に影響する変更です。
アンダーカットがあれば必ずスライドが必要ですか
必ずではありません。最初の問いは常に、設計を変えてアンダーカットをなくせないかです。穴を別の面へ移す、 縁の向きを変える、部品を分けるなどです。設計変更のほうが、型に機構を足すよりずっと安く済みます。
パーティングラインの跡が顧客の見える位置に来る場合は
パーティングラインを稜線や段へ移すか、跡を隠す小さな段を設計します。この判断は形状の段階で行います。型 を削った後にパーティングラインを変えることは、新しい型を作るのとほぼ同じだからです。
よくある質問(続き)
抜き勾配の最小値はどれくらいですか。
平滑面なら、ほとんどのエンジニアリングプラスチックで片面0.5度が最小、片面1〜2度が一般的で安全な 範囲です。深い壁はコアを強く掴むので、より多く必要です。
なぜシボ面は大きな勾配が要るのですか。
模様の山が型壁に食い込み、平滑面より強く掴むからです。よく使う目安は、基本勾配に加えてシボ深さ 0.025 mmごとに約1度を足すことです。
シボはいつ決めますか。
抜き勾配と同時に、早めに決めます。勾配を確定してから深いシボを足すと、部品が型を掴んで突き出し時に 擦れ、型直しを招きます——最も高くつく修正箇所です。
まとめ
樹脂部品の抜き勾配は、書類を整えるための手続きではない。設計意図を、繰り返し製作でき、組み立てられ、測定できる結果へ変えるための手段である。良い図面は、設計者がそばで説明しなくても伝わる。情報の構成そのものがその役割を果たさなければならない。
現場のための早見表
抜き勾配は、状況・与え方・目的を対応づけると決めやすくなります。
| 状況 | 与え方・制御の仕方 | 目的 |
|---|
| 外側の面 | 型開き方向に沿って抜く | 傷や引っ掛かりを避ける |
| しぼのある面 | しぼの深さに応じて角度を増やす | 表面を引きちぎらない |
| 組み付け面 | 機能で角度を制限する | 必要ならインサートや別処理を使う |
実際の場面
一つの抜き勾配を樹脂筐体の全体に当てはめることはできません。深いしぼのある壁は磨いた壁より大きな角度が要り、押しボタンの合わせ面はすき間を作らないよう抑えます。型開きの方向は、部品の配置を決める早い段階から現れていなければなりません。
MINATAの技術記事をすべて見る