機械設計 #97:機能で公差を配分する — 必要な所を厳しく、不要な所を広く
機能公差配分は境界が変わっても機能、製造、検査、費用、保全を守らなければならない。
数値より先に機能
肉厚、公差、基準、穴群を決める前に、入力、期待結果、合否限界、故障症状、測定方法を書く。全ての値と変更に担当を付ける。
基本チェック
- 機能上の特性と、その合否限界: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- 積み上げに寄与する要素と、データムの構成: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- 工程能力と、供給元に関する危険: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- 最悪値による配分と統計的な配分: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- 検査の手間と、測定の不確かさ: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- 費用、変更、再配分の規則: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
| 故障モード | 症状 | 確認 |
|---|
| 機能が未定義 | 過剰公差または機能不足 | 機能スタックを再構築 |
| 基準が実在しない | 検査と組立が不一致 | 実治具で試す |
| 文書が不一致 | 数値は正しいが改訂違い | 全資料を基準化 |
公差の積み上げ:足し方が二つあり、答えも二つ出ます
個々の部品へ公差を配分する前に、それらが合わさって何になるかを知る必要があります。足し方は二つあり、使う 場面が違います。
最悪値: 公差をそのまま足します。五つの部品が直列に並び、それぞれ±0.1ミリメートルだとします。最悪値 は五つとも同じ側へずれた場合で、5×0.1=±0.5ミリメートルです。絶対に安全ですが悲観的でもあります。五 つすべてが最大まで同じ側へずれる確率はごく小さいからです。
統計的な積み上げ(二乗和平方根): 二乗の和の平方根を取ります。同じ例では、5×0.1²の平方根でおよそ ±0.22ミリメートル、最悪値の半分にも届きません。
| どちらを使うか | 使う場面 |
|---|
| 最悪値 | 数量が少ない、安全が重要、一台の不良の影響が大きい、あるいは工程が統計的に管理されていない |
| 統計的な積み上げ | 数量が多く、工程が安定していてそれを示すデータがある。ごく小さい割合の外れを許容できる |
要点はここです。統計的な積み上げが正当なのは、供給元の工程能力のデータを持っているときだけです。数値 が良く見えるという理由で使うことは、自分をだましているだけです。
配分の三つの方法。状況に応じて選びます
| 配分方法 | やり方 | 向く場面 |
|---|
| 均等配分 | 連鎖の各要素へ同じだけ配る | 工程について何も分かっていないときの出発点 |
| 工程能力による配分 | 現場が厳しく作れる要素へ厳しい分を配る | 各工程や各供給元の能力が分かっている場合 |
| 費用による配分 | 安い場所を締め、高い場所を緩める | どの要素が一等級締めると急に高くなるか分かっている場合 |
実務では二つ目と三つ目は一緒に使います。現場がもともと低い費用で厳しく作れる要素を締め、加工方法を変えな いと達成できない要素を緩めます。
公差を締めるより安い方法:要素を減らし、調整の余地を残す
各要素を締める前に、次の二つを試してください。多くの場合ずっと安く済みます。
- 連鎖の要素数を減らす。 二つの部品を一つにまとめる、あるいは直列に位置決めするのではなく、一つの共通
部品から組立体全体を位置決めします。要素を一つ減らせば、その公差の分がまるごと合計から消えます。
- 管理された調整を一か所残す。 シム、調整ねじ、公差を明記した長穴などです。管理された調整は「現場で合
わせてもらう」とはまったく違います。範囲があり、測り方があり、合否の基準があります。
機能の連鎖に入らない部位は、図面の隅の普通公差に任せ、個別に書かないでください。 生産技術 #05 — 書いた公差が加工費を決める も参照してください。
公差の配分:すべての部品を一律に締めない
組立体に許容できる総公差があるとき(はめあいすきまを0.2 mm以内に収めるなど)、本当の問いは、その 0.2 mmを各部品にどう割り振るかです。配分を誤ると、組立体が不合格になるか、締める必要のなかった 部品まで締めてコストが上がります。
よくある配分の三通りです。
- 均等配分:各部品に等しい取り分。単純ですが、狭い公差を安く保てる部品もあれば高くつく部品も
あるので、たいてい無駄が出ます。
- 工程能力による配分:狭い公差を安く保てる部品に多くを負わせ、難しい部品(薄肉、軟らかい
材料、長い部品)にはゆるい取り分を与えます。
- コストによる配分:締めても安い部品に狭い公差を寄せ、高い部品はゆるめます。
コスト対公差の曲線
加工コストは公差を締めると急に上がり、比例しません。公差を半分にするとコストは倍以上になることが 多く、方法を変え(フライスから研削、研削からラッピング)、検査も増えるからです。狭い数値を書く前に、 機能が本当にそこまで要るのか、それとも惰性で締めているのかを問います。
総公差が、別々の部品に配分するには狭すぎるときは、次を使います。
- 選択嵌合:測ってから、大きい部品と小さい部品を組ませて互いに打ち消させ、両方を締めません。
ピストンとシリンダ、等級分けした玉軸受で広く使われます。
- 調整機構:調整ねじやシムが誤差を吸収し、残りの部品は経済的な公差で保てます。
選択嵌合や調整機構を選ぶのは駆け引きです。加工は安くなりますが、組立時と予備部品交換時の手間が 増えます。早めに決め、不合格になってから慌てないようにします。
MINATA発行チェック
- [ ] 機能、境界、故障症状を記載した。
- [ ] 基準、責任、工程、誤操作防止が明確である。
- [ ] 六項目に証拠と合否限界がある。
- [ ] 製造、組立、検査、保全を実機で試した。
- [ ] 改訂、サプライヤー、材料、構成記録が一致する。
良い設計は、製造、運転、保全、変更を通過する前提の連鎖である。機能公差配分では、機能とばらつきが信頼できる証拠を残すことがMINATAの基準である。
よくある質問
最悪値と統計的な積み上げのどちらを使いますか
数量が少ないとき、安全が重要なとき、工程のデータがないときは最悪値です。数量が多く、工程が安定しているこ とをデータで示せるときは統計的な積み上げです。数値が楽になるという理由で統計的な方法を選ぶことは、自 分をだましているだけです。
五つの部品がそれぞれ±0.1ミリメートルなら合計はいくつですか
最悪値は±0.5ミリメートル(そのまま足す)、統計的にはおよそ±0.22ミリメートル(二乗和の平方根)です。二つ の数値は二倍以上違うため、どちらの足し方を採るかは設計の判断であり、細かな技術的細部ではありません。
念のためすべての寸法を締めてもよいですか
いけません。一律に締めると、費用も測定時間も不良も増えるのに、機能は増えません。正しいやり方は、保証すべ き特性へつながる公差の連鎖を見つけ、その連鎖に本当に入っている要素だけを締めることです。
調整の余地を残すのは雑な設計ですか
管理された調整なら違います。調整の範囲があり、測り方があり、合否の基準があるものです。雑なのは、図面に 何も書かず現場に合わせてもらうことです。それでは二台目が一台目と違ってしまいます。
連鎖の部品数を減らすことは本当に安いのですか
多くの場合、公差を締めるより安くなります。要素を一つ減らせば、その誤差への寄与がまるごと消え、同時に買う部 品、検査する部品、組み付ける部品も一つ減るからです。各要素を締めると決める前に試す価値があります。
よくある質問(続き)
連鎖の中の全部品に公差を均等配分すべきですか。
たいていは違います。均等配分は単純ですが無駄が出ます。部品ごとに難しさとコストが違うからです。 保ちやすく安い部品に狭い取り分を寄せ、難しい部品や高い部品はゆるめます。
なぜ公差を締めるとコストが急に上がるのですか。
加工コストが比例しないからです。公差を半分にするとコストは倍以上になることが多く、方法を変え (フライスから研削、研削からラッピング)、検査も増えます。機能が本当に要るときだけ締めます。
いつ全部を締める代わりに選択嵌合を使いますか。
総公差が、別々の部品に経済的に配分するには狭すぎるときです。測ってから大きい部品と小さい部品を 組ませて互いに打ち消させます(ピストンとシリンダ、等級分けした軸受)。代償は組立時と交換時の 測定と組合せの手間です。
まとめ
機能で公差を配分するは、書類を整えるための手続きではない。設計意図を、繰り返し製作でき、組み立てられ、測定できる結果へ変えるための手段である。良い図面は、設計者がそばで説明しなくても伝わる。情報の構成そのものがその役割を果たさなければならない。
現場のための早見表
公差配分は、状況・与え方・目的を対応づけると決めやすくなります。
| 状況 | 与え方・制御の仕方 | 目的 |
|---|
| 位置決めの特徴 | 機能連鎖に沿って厳しくする | 相対位置を保証する |
| 機能しない面 | 経済的な加工公差にする | むだに高くしない |
| 調整の段 | シムや調整すきまを残す | 組付けのばらつきを吸収する |
実際の場面
すべての寸法へ均等に公差を割り振りません。出力側で許されるすきまや偏りから始め、公差の積み上げを組み立て、工程能力と各段の寄与に応じて配分します。
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