機械設計 #99:穴群の位置度公差 — 座標ではなく交換組立を管理する
穴群の位置度公差は境界が変わっても機能、製造、検査、費用、保全を守らなければならない。
数値より先に機能
肉厚、公差、基準、穴群を決める前に、入力、期待結果、合否限界、故障症状、測定方法を書く。全ての値と変更に担当を付ける。
基本チェック
- 組付けの機能と、穴の並びへの要求: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- データムの優先順位と、拘束されない自由度: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- 位置度、最大実体公差方式、実効状態: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- ドリル、リーマ、三次元測定機、ゲージのいずれで行うか: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- 締結部品のすきまと、交換部品: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- 工程能力、合否基準、変更の管理: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
| 故障モード | 症状 | 確認 |
|---|
| 機能が未定義 | 過剰公差または機能不足 | 機能スタックを再構築 |
| 基準が実在しない | 検査と組立が不一致 | 実治具で試す |
| 文書が不一致 | 数値は正しいが改訂違い | 全資料を基準化 |
四角い領域と丸い領域:なぜ57パーセントも違うのか
穴の中心座標を上下の許容差で指示すると、たとえばX=50±0.1、Y=30±0.1と書くと、一辺0.2ミリメートルの四 角い合格領域ができます。しかしボルトを通すという機能は、中心がどの向きにずれたかを気にしません。気にす るのはどれだけ離れたかだけです。機能に合う領域は円です。
この二つの領域はかなり違います。四角い領域の対角線を直径とする円(0.2×√2でおよそ0.283ミリメートル)の面 積は、四角い領域より約57パーセント大きくなります。
- 四角い領域:0.2×0.2=0.04平方ミリメートル
- 直径0.283の円:π×0.1414²でおよそ0.0628平方ミリメートル
つまり上下の許容差による指示は、実際には組み付く部品の57パーセント分を捨てていることになります。しか も斜めにずれた、現実には組みにくい部品を受け入れることもあります。円筒の公差域を持つ位置度のほうが、上下 の許容差より機能をよく表すのはこのためです。
位置の要求を構成する三つの要素
| 要素 | 書き方 | 役割 |
|---|
| 理論的に正確な寸法 | 長方形の枠に入れた数値 | 理論上の正しい位置。それ自身は許容差を持たない |
| 位置度の公差記入枠 | 位置度の記号+公差域の直径+データム系 | 中心がどれだけ、何を基準にずれてよいか |
| データム系 | 優先順位に沿ったA、B、C | 穴の並びを、実際の取付面へ結び付ける |
よくある誤りは、理論的に正確な寸法に上下の許容差も付けてしまうことです。二つの管理方法が重なり、現場はど ちらに従えばよいか分からなくなります。
最大実体公差方式と、追加で得られる公差
通し穴には単純な物理的関係があります。穴が大きいほど、中心が多くずれていても組み付けやすいという関係 です。最大実体公差方式はまさにそれを利用します。穴が最小の寸法より大きく仕上がったとき、その分だけ位置の 公差が追加で認められます。
適用する場面は、ボルトや通しピンのための穴で、機能が通ることだけの場合です。適用しない場面は、位置決 めのための穴、ブシュや軸受を受ける穴です。そこでは位置そのものが機能を決めており、通るかどうかだけではあ りません。
機能ゲージによる検査
位置度と最大実体公差方式の組合せには、あまり知られていない利点があります。穴の並びを機能ゲージで検査 できることです。理論上の正しい位置にピンを立てた板で、そこへ落ちれば合格です。三次元測定機で座標を一つず つ測るよりはるかに速く、しかも機能が必要としていること、つまり組み付くかどうかを直接確かめられます。
機械設計 #30 — 組付けの機能に基づく幾何公差 も参照してください。
最大実体条件(MMC)と追加公差
ボルトを通す穴群では、どの穴径でも同じ位置精度が要るとは限りません。穴が最小許容径より大きいと ボルト周りのすきまが広がり、その余ったすきまのぶんだけ穴が位置ずれしてもボルトは通ります。これが 位置度に付くⓂ記号(最大実体条件)の意味です。
- 最小径(材料が最も多い)の穴は、図面に記した位置度をそのまま受けます。
- より大きい穴は、大きくなったぶんだけの追加公差を得ます。余ったすきまが許すからです。
例:位置度を⌀0.2 Ⓜ、最小穴を⌀5.0とします。実測が⌀5.1なら追加0.1が付き、合計の位置度は⌀0.3に なります。同じ穴群でも、Ⓜを付ければ組み付けられる部品をより多く受け入れ、不良を減らせます。
すきまの式:浮動締結と固定締結
ボルトと穴の実すきまから位置度を選びます。
| 締結の種類 | 式(部品あたりT) | 意味 |
|---|
| 浮動締結(両部品ともばか穴) | T = H − F | 両方の穴がずれられる |
| 固定締結(片側がねじ/ピン) | T = (H − F) / 2 | ねじ側は動けず、すきまを二分する |
ここでHは最小穴径、Fは最大ボルト径です。固定締結は片側が固定されるため公差が小さくなります。 片方の部品にねじ穴や位置決めピンがあるときは、これを忘れないようにします。
機能ゲージ:穴群を一度に検査する
Ⓜを使うと、穴群は機能ゲージで検査できます。真の公称位置に正しい径のピンを立てた板です。この ゲージにはまる穴群は、追加公差も含めて合格です。各穴の座標を測って計算し直すより速く、実際の 組付け条件に忠実です。
MINATA発行チェック
- [ ] 機能、境界、故障症状を記載した。
- [ ] 基準、責任、工程、誤操作防止が明確である。
- [ ] 六項目に証拠と合否限界がある。
- [ ] 製造、組立、検査、保全を実機で試した。
- [ ] 改訂、サプライヤー、材料、構成記録が一致する。
良い設計は、製造、運転、保全、変更を通過する前提の連鎖である。穴群の位置度公差では、機能とばらつきが信頼できる証拠を残すことがMINATAの基準である。
よくある質問
穴の中心座標を上下の許容差で書いてはいけないのはなぜですか
その書き方が四角い合格領域を作るのに対し、ボルトを通す機能が必要とするのは円の領域だからです。相当する円 の領域は面積が約57パーセント大きく、上下の許容差では実際に組み付く部品を多く捨てていることになります。
理論的に正確な寸法とは何ですか
理論上の正しい位置であり、長方形の枠に入れて書き、それ自身は許容差を持ちません。許容差は位置度の記入 枠の中にあります。この寸法に上下の許容差を足すことは、二つの管理方法を重ねることであり、現場はどちらに従 うか分からなくなります。
最大実体公差方式はいつ使いますか
穴が通ることだけを求められるとき、つまり通しボルトの穴、通しピンの穴です。そのとき穴が最小より大きく仕上 がれば公差が追加で認められ、物理的にも筋が通っています。位置決めの穴、ブシュや軸受を受ける穴には使いません。
機能ゲージとは何で、いつ作る価値がありますか
理論上の正しい位置にピンを立てた板で、部品がそこへ落ちれば合格とする道具です。数量が十分にあるとき、ある いは同じ穴の並びを何度も検査するときに価値があります。座標を一つずつ測るよりはるかに速く、機能が必要とし ていることを直接確かめられます。
穴の並びのデータム系はどう選びますか
相手部品と組むときに、部品が実際に当たり位置決めされる面で選びます。組付けの接点と関係のない基準に対して 正しい穴の並びは、紙の上では正しくても組み付きません。
よくある質問(続き)
位置度に付くⓂ記号は何をもたらしますか。
追加公差です。穴が最小径より大きいとボルト周りのすきまが広がるので、そのぶん穴が位置ずれしても 組み付けられます。結果として、機能が「ボルトが通る」ことだけを要する穴群で、合格部品が増え不良が 減ります。
浮動締結と固定締結は公差でどう違いますか。
浮動締結(両側ばか穴)は部品あたりT = H − Fを与えます。固定締結(片側がねじまたはピン)はT = (H − F)/2しか与えません。固定された側が動けず、すきまを二分するからです。
機能ゲージとは何ですか。
真の公称位置に正しい径のピンを立てた板です。このゲージにはまる穴群は、Ⓜの追加公差を含めて合格 です。実際の組付け条件に対して穴群を一度に検査でき、各穴を測るより速いです。
まとめ
穴群の位置度公差は、書類を整えるための手続きではない。設計意図を、繰り返し製作でき、組み立てられ、測定できる結果へ変えるための手段である。良い図面は、設計者がそばで説明しなくても伝わる。情報の構成そのものがその役割を果たさなければならない。
現場のための早見表
位置度は、状況・与え方・目的を対応づけると決めやすくなります。
| 状況 | 与え方・制御の仕方 | 目的 |
|---|
| 位置決めの基準 | 実際の合わせ面から選ぶ | 穴群が相手部品と合う |
| 公差域 | 穴中心に円筒域を使う | ボルトの通りを表す |
| 材料条件 | 適切ならMMCを考える | ボーナス公差を許す |
実際の場面
各座標を±0.1で管理すると四角い域になり、丸いボルトを正しく表せません。位置度は円筒域を作り、穴群全体の組み付けやすさを直接管理できます。
MINATAの技術記事をすべて見る