技術日本語 #01 — ベトナム人技術者に必要な「現場の日本語」と実用的な学習ルート
日越プロジェクトでよく起きる逆転があります。技術判断がいちばん確かな技術者が、日本語の図面や朝礼の報告の前でいちばん動けなくなる。能力の問題ではありません。彼らに必要な日本語が JLPT の教科書に載っていない だけです。N3 を持っていても「バリ取り」が何か分からず、図面の「C0.5」を読み違えることがあります。この連載はその空白を埋めます。#01 では全体像と、遠回りしない順番を示します。
現場の日本語と一般の日本語は別物
| 現場 | 一般 |
|---|
| 語彙 | 閉じていて反復する(加工・検査・不良・段取り・治具)。中核の数百語で足りる | 生活語彙が数千語と広い |
| 文脈 | 非常に狭い。圧力を上げる と 品質を上げる は別の話 | 柔軟 |
| 技能 | 読み書きが会話と同じ重み(図面・仕様書・報告書) | 会話に偏る |
一般の日本語は日本で「暮らす」ための言葉、現場の日本語は「技術をする」ための言葉です。技術者には後者が先に要ります。しかも有利です。概念はすでに理解しているので、日本語のラベルを貼るだけで済む。語学から入る学習者の半分の仕事量です。
学習ルートは四段階

- 現場を読む土台 — 寸法と単位(㎜・φ・R・C)、技術カタカナ(モーター・センサー)、作業の動詞(締める・緩める・確認)。目標は、図面が「読めない壁」でなくなること。
- 部署ごとの用語 — 生産技術・品質・設備・保全・製造・安全。どの部署も自分の語群を繰り返し使います。
- 技術文書を読む — 表題欄、加工指示(面取り・バリ取り)、仕様書、QC工程表、ミスミやオムロンのカタログ。ここで日本語がいちばん利息を生みます。
- 伝える・報告する — 報連相、メールと報告書、不具合の報告、朝礼、引継ぎ。「仕事を任せられる人」と見なされるかどうかは、この段階で決まります。
四段階は厳密な順番ではなく、必要に応じて並行して構いません。ただしこの順で進めると、各段階が前の段階の上に立ちます。
忘れないための「四列ノート」
現場で出会った語は、その場で同じ書式に入れます。読みは必ず一緒に書きます。
| 日本語 | 読み | ベトナム語 | 現場メモ |
|---|
| バリ | bari | ba-via, mép sắc | 加工後に残る余分な縁。取り(除去)が要る |
| 面取り | めんとり mentori | vát mép | 図面では C または R で指示される |
| 治具 | じぐ jigu | đồ gá | 加工中に部品を位置決めし、クランプする |
| 段取り | だんどり dandori | đổi hàng, set-up | 次のロットを流す前の準備時間 |
この四列の表が、連載の各回でお渡しする「持ち帰り品」です。回を重ねると、一生使える一冊の用語ノートになります。
最初の30日
| 週 | 重点 |
|---|
| 1 | 数字と図面記号(㎜・φ・R・C・t・±)。毎日、実物の図面から寸法を五つ声に出して読む |
| 2 | 技術カタカナ(モーター・センサー・ボルト)。英語に戻して確かめる |
| 3 | 現場漢字100字(#04)のうち最初の50字。自分の部署の語から始める |
| 4 | 確認と報告の定型文を十個。毎日一つは実際に使う |
30日後の目標は「日本語が上手になる」ことではありません。図面を自信をもって手に取り、基本的な技術のやり取りに入れることです。
よくある三つの思い込み
| 思い込み | 実際 |
|---|
| 「まず一般の日本語を仕上げてから」 | 用語さえ正確なら、控えめな文法でも図面は読めるし基本のやり取りはできる |
| 「日本に住んでいれば自然に身につく」 | 耳が慣れることと、漢字を読み報告書を書くことは別。意図的な練習が要る |
| 「翻訳ソフトで足りる」 | 機械翻訳がいちばん外すのが専門用語と図面記号。現場が要求する速さと正確さに届かない |
| JLPT のように広く浅く | 狭く深いほうが勝つ。自分の仕事が実際に使う語群を学ぶ |
| 字面だけ覚えて読みを捨てる | 読めなければ質問も検索もできない。読みは必ず残す |
| 間違いを恐れて使わない | 日本の現場は、黙って間違える人より「確認します」と言える人を評価する |
この連載の読者
いちばん直接に役立つのは、日系企業と、または日系企業の中で働くベトナム人技術者・技能者です。日本での就業を目指す工学系の学生は、必要になる前に語彙を持てます。ベトナム人スタッフを指導する日本人管理者にとっては、共通の参照資料になります。橋渡しの回に日本語版と英語版を用意しているのはそのためです。
最初の一週間のチェックリスト
- [ ] 四列ノートを作り、自分の仕事から最初の十語を書き入れる。
- [ ] 基本の数字と図面記号(㎜・φ・R・C)を読めるようにする。
- [ ] 自分の部署を決め、その用語群を集める。
- [ ] 確認の一文を覚える:「〜で よろしいでしょうか。」
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次回以降: 日本語の図面で数字と寸法を読む(第一段階)・現場漢字100字・部署別の用語。
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