機械設計 #103:機能で表面粗さを選ぶ — 全てを光らせる必要はない
機能表面粗さは境界が変わっても機能、製造、検査、費用、保全を守らなければならない。
数値より先に機能
幾何値、粗さ、はめあいを決める前に、入力、期待結果、合否限界、故障症状、測定方法を書く。全ての値と変更に担当を付ける。
基本チェック
- 機能:接触、密封、摩擦、外観のどれか: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- 粗さの指標と、測定の方向: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- 材料、工具、送り、工程能力: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- 皮膜、ばり、筋目、縁の状態: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- 測定器、カットオフ、不確かさ: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- 供給元、費用、合否の証拠: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
| 故障モード | 症状 | 確認 |
|---|
| 機能が未定義 | 過剰公差または機能不足 | 機能スタックを再構築 |
| 基準が実在しない | 検査と組立が不一致 | 実治具で試す |
| 文書が不一致 | 数値は正しいが改訂違い | 全資料を基準化 |
一つの算術平均粗さでは表面を言い表せません
面の種類ごとに粗さの水準をどう選ぶかは 機械設計 #31 — 機能から算術平均粗さを選ぶ で扱っています。ここではその次の問いに答えます。加工する側と検査する側が同じに読め、実際に 確認できるようにするには、どう書けばよいかです。
問題の根は、算術平均粗さが平均値であることです。同じ値でも、一様にうねっている面と、平 らだが鋭い山が数本ある面、深い傷が数本ある面はまったく違います。密封面や摺動面では、その孤 立した山と谷こそが結果を決めます。
| 指標 | 何を表すか | 使う価値がある場面 |
|---|
| 算術平均粗さ | 凹凸の平均的な高さ | 一般的な要求、大部分の面 |
| 最大高さ粗さ | 高い山と深い谷の差 | 密封面、深い傷が漏れにつながる面 |
| 負荷長さ率 | ある深さで実際に荷重を支える材料の割合 | 荷重を受ける摺動面、油を保持したい面 |
すべての面に三つとも指定する必要はありません。実務的な原則は、大部分には算術平均粗さを書き、 密封面には最大高さ粗さを足し、負荷長さ率は明確な機能上の要求と測定手段がある場合に限る、と いうものです。
筋目の方向は粗さの数値と同じくらい重要です
同じ算術平均粗さでも、加工の筋目が摺動方向に沿っている面と、摺動方向を横切っている 面ではふるまいが違います。Oリングの密封面では、筋目が漏れの経路に沿っていると、流体が抜ける 道になります。
表面性状の図示記号には筋目の方向を書く位置があり、投影面に平行、直角、二方向に交差、多方向、 同心円、放射状といった記号が定められています。この記号を書くことは、見つけにくい不具合を一つ 消すための最も安い方法です。筋目の方向が違っていても、粗さの測定はすべて合格してしまうからで す。
受入:測定条件を書かなければ数値に意味はありません
粗さの測定結果は、思っている以上に測り方に左右されます。図面または検査文書に書くべき条件が四 つあります。
- 測定方向。 標準の測定は筋目に直角に行います。別の方向で測ると、実際より小さい値が出ます。
- 基準長さとフィルタ。 同じ面でも基準長さを変えれば結果が変わります。受入で議論になりそう
な部品では、事前に取り決めます。
- 測定位置。 大きな面は一様ではありません。工具の入り口、出口、行程の途中で違います。どこ
を何点測るかを指定します。
- 測定時の表面状態。 表面処理の前か後か、洗浄の前か後かです。
測れない場合は別の指定方法にします
機械の中には、そもそも触針が入らない面が多くあります。細く深い穴、狭い溝、内側の曲面などです。 そこへ粗さの数値を押し付けると、誰も検証できない条項ができます。代わりになる方法が三つありま す。
- 工程を指定する。 許容する最終加工とその条件を書きます。結果を間接的に縛る方法ですが、記
録で確認できます。
- 比較見本を使う。 目と手で標準見本と比べる方法で、重要度の低い面に向きます。
- 外観には限度見本を使う。 美観の要求では、観察条件を添えた限度見本が各者の水準をそろえる
道具になります。日本の現場での呼び方と使い方は 技術日本語 #10 にあります。
公差の等級と、それに伴う粗さの水準を対応させた表は はめあい公差と表面粗さの早見表 にあります。
粗さパラメータは機能で選び、Raを既定にしない
前の節では、一つのRa値では表面を言い表せないと述べました。この節は、表面が果たす役目でパラメータを 選びます。
| 表面の機能 | 使うべきパラメータ | 理由 |
|---|
| シール(パッキン、フランジ面) | Rz(最大高さ) | 深い山や谷が一つあれば漏れる。Raは小さいままでも |
| すべり・潤滑面 | Rk系(Rk、Rpk、Rvk) | 早く摩耗する山と、油を保つ谷を分ける |
| 摩耗・荷重を受ける面 | Rmr(負荷長さ率) | ある深さで荷重を受ける材料を測る |
| 意匠面 | Ra | 目や手で感じる滑らかさの確認には足りる |
Rk系:すべり面がなぜそれを要するか
良いすべり面は、山が低く(高いと早くなじんで摩耗する)、谷は油を保つのに十分な深さがあります。一つの Ra値ではこの二つを分けられません。同じRaの二面が、一方は鋭い山ばかり、もう一方は油を保つ谷を持つ、 ということがあり得ます。Rk系はこれを分けます。Rpk(山、初期摩耗の部分)、Rk(コア、主に荷重を 受ける部分)、Rvk(谷、油を保つ部分)です。シリンダ内面やジャーナルは、まさにこの理由でRk系で 指定されることが多いです。
すじ目の方向はシールで重要です
工具跡は表面に方向のあるすじ目を残します。回転シールでは、すじ目は漏れの方向を横切るべきで (ふつうは軸方向でなく円周方向)、軸方向のすじ目は油がシールを越える通り道になるからです。シールが 要る箇所には、粗さの値だけでなく、すじ目記号(⟂、=、X、M など)を図面に記します。
MINATA発行チェック
- [ ] 機能、境界、故障症状を記載した。
- [ ] 基準、責任、工程、誤操作防止が明確である。
- [ ] 六項目に証拠と合否限界がある。
- [ ] 製造、組立、検査、保全を実機で試した。
- [ ] 改訂、サプライヤー、材料、構成記録が一致する。
良い設計は、製造、運転、保全、変更を通過する前提の連鎖である。機能表面粗さでは、形状と機能が信頼できる証拠を残すことがMINATAの基準である。
よくある質問
すべての面で算術平均粗さだけで足りますか
大部分は足ります。ただし平均値であるため、鋭い山が数本あることや、孤立した深い傷を見つけられ ません。密封面には最大高さ粗さを足し、荷重を受ける摺動面では負荷長さ率が必要になることがあり ます。
筋目の方向は書く必要がありますか
摺動面と密封面では必要です。同じ粗さでも、筋目が摺動方向に沿うか横切るかで結果が変わり、漏れ の経路に沿った筋目は流体の抜け道になります。表面性状の記号には筋目を書く位置があります。
同じ部品を両者が測って値が違う場合、どちらが正しいのですか
多くの場合、どちらも自分の方法では正しく測っています。結果は測定方向、基準長さ、フィルタ、測 定位置に依存します。議論を終わらせる方法は、製作前に文書へこれらの条件を書いておくことであり、 現物が出てから議論することではありません。
細い穴の内面はどう検査しますか
直接は測れないことがほとんどです。許容する最終加工を指定するか、比較見本を使います。検証でき ない粗さの数値を書いても、受入で保留の条項が増えるだけです。
粗さを厳しくすれば表面は丈夫になりますか
自動的には丈夫になりません。粗さを下げると工程が増えて価格が上がる一方、疲労強度を決めるのは 深い傷と表面の残留応力の状態です。丈夫にしたいなら、数値を下げるだけでなく、傷の限度と表面の 応力状態について書いてください。
よくある質問(続き)
シール面はRaで指定しますか、Rzで指定しますか。
Rzです。深い山や谷が一つあれば漏れますが、Ra(平均)はその山や谷があっても小さいままでいられます。 Rzは最大高さを捉えるので、漏れ止めの要求に合います。
Rk系はどの面に使いますか。
潤滑のあるすべり面(シリンダ内面、ジャーナル)です。早く摩耗する山(Rpk)、荷重を受けるコア(Rk)、 油を保つ谷(Rvk)を分けます。同じRaの二面を、一つのRa値では区別できないものです。
すじ目の方向は記載が必要ですか。
シール面では必要です。すじ目は漏れの方向を横切らせ、油がシールを越える通り道を作らないようにします。 シールの箇所には、粗さの値とともに、すじ目記号を図面に記します。
まとめ
機能で表面粗さを選ぶは、書類を整えるための手続きではない。設計意図を、繰り返し製作でき、組み立てられ、測定できる結果へ変えるための手段である。良い図面は、設計者がそばで説明しなくても伝わる。情報の構成そのものがその役割を果たさなければならない。
現場のための早見表
面粗さは、状況・選び方・目的を対応づけると決めやすくなります。
| 状況 | 選び方・制御の仕方 | 目的 |
|---|
| 密封面 | ガスケット材に合わせてRa/Rzを選ぶ | ガスケットを痛めず密封する |
| すべり面 | 粗さと加工目の向きを組み合わせる | 油を保ち、摩耗を減らす |
| 外観面 | 必要なら見本を指定する | 粗さを美観の基準の代わりにしない |
実際の場面
表面はつるつるなほど良い、とは限りません。油を保つ面には適した加工目が要り、密封面は粗すぎると漏れますが、つるつるすぎても油膜を保ちにくいことがあります。指示は機能から出発します。
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