機械設計 #53:樹脂部品 — 加工、組立、長期耐久のために設計する
樹脂は自動機を軽く、静かに、清潔にし、試作を容易にします。しかし、ねじ周りの割れ、一定荷重のクリープ、吸湿、加工後の反り、保全後の基準ずれが起きます。
樹脂部品は材料名だけでなく、次の連鎖で設計します。
機能 → 材料・工法 → 形状 → 荷重・環境 → 許容差 → 製造 → 組立 → 検証 → 保全
1. 機能と環境から始める
荷重、支持、運動、接触、繰返し回数、温度、湿度、薬品、清浄度、紫外線、静電気、寿命を 定義します。短時間の衝撃と、長く続く一定荷重は分けて考えます。一分間は耐えても、一年 後にクリープで変形していることがあります。
2. 材料選定は系全体の判断です
剛性、強度、衝撃、疲労、クリープ、摩耗、摩擦、吸湿、熱膨張、耐薬品性、難燃性、加工性、 供給、費用を比べます。引張強さだけで選ばないでください。材料の等級、充填材の有無、色、 成形時の流動方向も記録します。
3. 工法が形状を変えます
切削、射出成形、三次元造形、切断、曲げ加工では、肉厚、丸み、抜き勾配、収縮、繊維の方向、 積層、表面についての制約がそれぞれ違います。公差を固めるより先に工法を決めます。塊から 削り出した試作品は、量産の成形品を代表しないことがあります。
4. 応力集中を避ける
大きな丸み、なめらかな変わり目、十分な断面、適切な繊維または積層の方向を使います。鋭い 内角、急な肉厚変化、支えのないボス、縁に近すぎる穴は避けます。静的な荷重だけでなく、繰 返し荷重でも確認します。
5. クリープと締付力
一定の締付力、自重、曲げは、時間とともに緩みます。荷重が加わる時間、温度、接触面、ねじ、 座金、インサート、支持、許容できる変形量を定義します。基準となる面が重要なら、樹脂の締 付力だけに頼らないでください。
6. ねじと締結部品
樹脂のねじは、ねじ山がつぶれる、緩む、割れるという壊れ方をします。加熱圧入のインサート、 ナット、通しボルト、金属ブシュ、適切なタッピンねじの中から、締付トルク、再使用の回数、 温度、作業空間で選びます。下穴、ボス、縁からの距離、締付トルク、座金、検査を記録します。
7. 組立の公差
金属の公差をそのまま写さないでください。重要な基準面、穴の並び、すきま、締めしろ、温度、 収縮、測定方法を定義します。センサのすきまや動きが複数の部品に依存するなら、公差の積み 上げを計算します。
8. 表面、摩耗、汚れ
接触する面は摩耗し、粉、油、傷を生みます。表面のしぼ、皮膜、インサート、ブシュ、交換で きる摩耗板、清掃の方法を選び、許容できる摩耗量と、それを検出する方法を決めます。
9. 組立で割れを作らない
反った部品を無理に締め付けないでください。差し込みの案内、押さえ、工具の入る空間、支持、 締付の順序、割れの確認手順を用意します。ねじで設計上のずれを引き寄せる前に、残留応力を 評価します。
10. 温度と湿度
温度と吸湿で寸法が変わります。基準となる状態、使用範囲、保管、ならしの条件、測定方法を 定義し、センサのすきま、密封、すきま、動く接点を、最も厳しい条件で検証します。
11. 故障モード
割れ、クリープ、ぜい性破壊、摩耗、変形、インサートの緩み、ねじ山の破損、層間はく離、膨 潤、薬品による侵食、変色、汚染、短絡、静電気、部品の取り違えを確認します。原因、影響、 検出、管理方法、証拠を記録します。
12. 加工と検査
工具の届く範囲、データム、取り代、締付、切りくず、縁の処理、測定位置、検査方法を図面へ 入れます。小さな樹脂部品でも、供給元が推測せずに製作し測定できる図面が必要です。
13. 組立と保守
向き、誤組み防止、表示、締結部品、交換できる摩耗面、安全な取外しを設計します。締付トル ク、インサート、調整、校正、組立後の確認を記録します。
14. センサ取付具の例
センサのすきま、検出対象、振動、温度、材料、ケーブルの荷重、締結部品、基準面、調整を定 義します。切削品と成形品を比べ、保守でねじが傷むなら金属インサートを使います。温度、振 動、想定した繰返し回数の後に、すきまと信号を試験します。
15. 検証の計画
寸法、表面、材料、インサート、締付トルク、組立を検査し、必要に応じて機能、荷重、繰返し 回数、環境、汚れ、保守の試験を行います。試験片、条件、測定値、合否基準、改訂を保存します。
16. 樹脂部品のチェックリスト
- [ ] 機能、荷重、繰返し回数、環境、寿命を定義した。
- [ ] 材料の等級と工法を管理している。
- [ ] 応力集中と、支えのないボスを避けた。
- [ ] クリープ、吸湿、温度、摩耗、薬品を評価した。
- [ ] ねじ、インサート、締結部品、締付トルク、再使用が適切である。
- [ ] 基準面、公差の積み上げ、すきま、収縮、調整が明確である。
- [ ] 切削または成形と、検査の要求を図面へ定義した。
- [ ] 割れ、ゆがみ、部品の取り違えを防ぐ組立を設計した。
- [ ] 保守、清掃、摩耗、交換を考慮した。
- [ ] 故障モードに管理方法と証拠がある。
- [ ] 機能、環境、寿命、組立を検証した。
樹脂の系統は在庫ではなく使用条件で選ぶ
樹脂部品の不具合の多くは、材料選定を習慣で済ませたところから始まります。「白くて硬い のはポリアセタール」「柔らかいのはナイロン」という選び方です。先に確認すべき条件は四 つあります。荷重が静的か動的か、薬品や溶剤に触れるか、使用温度は何度か、厳しい公差 を保つ必要があるかです。
| 樹脂の系統 | 得意なところ | 注意すべきところ |
|---|
| ポリアセタール(POM) | 寸法が安定し、自己潤滑性があり、切削面がきれい | 酸に弱い。接着と塗装が難しい。熱膨張が金属よりかなり大きい |
| ナイロン(PA6・PA66) | 靱性が高く、衝撃と摩耗に強い。歯車やローラーに向く | 吸湿で寸法も機械的性質も変わる。加工直後ではなく吸湿後の状態で設計する |
| 超高分子量ポリエチレン | 滑りがよく耐摩耗性が高い。安価でコンベヤのガイドに向く | 軟らかく、静荷重でクリープが大きい。厳しい公差は保持できない |
| ふっ素樹脂(PTFE) | 摩擦係数が最も低く、耐薬品性と使用温度範囲が広い | 非常に軟らかくクリープが大きい。摺動面や密封面に使い、荷重部材には使わない |
| ポリカーボネート | 透明で耐衝撃性が高く、のぞき窓に多い | 溶剤や洗浄剤に触れると応力割れが起きる。カバー窓の割れで最も多い原因 |
| アクリル(PMMA) | 透明で安価、切断と研磨が容易 | もろい。穴の縁や切断面の傷から割れが進展する |
| ポリエーテルエーテルケトン | 耐熱性、耐薬品性、耐荷重性がこの中で最も高い | 価格が大きく上がる。技術的な理由がある場合に限って使う |
この樹脂の詳細と採用の目安は 材料 #07 — PEEKとは にあります。板や骨組みの段階でアルミ、鋼、工業用樹脂を比べる話は 機器選定 #23 — 板と骨組みの材料 にあります。
鋼の部品にはない三つの壊れ方
クリープ。 金属は弾性域の静荷重なら形を保ちます。樹脂はゆっくり変形し、完全には 戻りません。組立直後の検査では合格した部品が、数週間の常時荷重で沈み込み、締付力を失 い、公差から外れることがあります。樹脂部品では短時間の最大荷重よりも、長く続く静荷 重のほうが危険です。鋼で身についた感覚とは逆になります。
熱膨張と吸湿がすきまを食う。 工業用樹脂の線膨張係数は鋼より一桁大きいため、常温で すきまを決めた樹脂と鋼の組合せは、機械が温まると固着することがあります。ナイロン系は 吸湿による変化も加わります。計算方法と数値例は 材料 #08 — 線膨張係数 にあります。
応力集中部からの割れ。 樹脂は金属より切欠きに敏感です。鋭い内側の角、とがった溝 底、ばりの残った穴の縁は、いずれも割れの起点になります。ここに加工の残留応力と溶剤の 接触が重なると、異常な荷重がなくても数週間後に割れが現れます。内側の角をすべて丸め、 穴の縁のばりを取ることが、この記事で最も安価な対策です。
加工と締結:図面に書くべき四つの決定
- 素材の形態。 押出材と鋳造板では残留応力の大きさが違います。薄く長い部品や平面度
が必要な部品は、素材の形態と、加工の前または途中で応力除去を行うことを指定します。 加工現場任せにしません。
- 削る順序。 片側だけ削ると機械上で反ります。両側を対称に削り、最後の仕上げに取り
代を残すほうが平面度を保てます。
- 繰返し荷重を受けるねじ。 樹脂へ直接タップを立てるのは、軽荷重で着脱の少ない箇所
に限ります。着脱が多い箇所や振動を受ける箇所には金属インサートを使います。選び方と 配置は 機械設計 #96 — 樹脂部品のインサート にあります。
- ねじの通し穴。 熱膨張の逃げを取るため、鋼の部品より大きいすきまにし、締付力を分
散させる広い座金を併用します。ねじの頭を樹脂面へ直接当てて締めると、時間とともに沈 み込んで締付力を失います。これは締結部から見たクリープです。
よくある質問
引渡し時は入ったのに数週間後に固着したのはなぜですか
疑う順序は三つです。機械が温まったときの熱膨張、ナイロン系であれば吸湿、常時締付荷重 を受けているならクリープです。加工直後ではなく、高温状態と、使用環境で安定した後に測 り直して確認します。
樹脂部品にも鋼と同じ厳しい公差を書いてよいですか
習慣で厳しく書かないでください。樹脂は温度と湿度で鋼より大きく寸法が変わるため、現場 が正しく作っても保持できない公差があります。どうしても厳しくする場合は、温度、湿度、 安定させた時間という測定条件を併記します。
樹脂へ直接タップを立ててもよいですか
軽荷重で着脱が少なければ問題ありません。振動を受ける箇所や繰返し着脱する箇所では、樹 脂のねじが摩耗して締付力を失うため金属インサートを使います。また樹脂のねじは、鋼より 長いはめ合い長さが必要です。
図面に平面と書いてあるのに切削後に反るのはなぜですか
素材の残留応力が、材料を削ることで解放されるためです。対策は、素材の形態を選ぶこと、 応力除去を入れること、両側を対称に削ること、最後の仕上げに取り代を残すことです。これ らは設計側で決めて図面に書く事項であり、現場の工夫に任せる話ではありません。
ポリカーボネートのカバーがねじ穴の周りで割れる原因は何ですか
三つが重なった場合が多いです。穴の縁に加工痕が残っていること、ねじで板を直接締め付け ていること、清掃時に溶剤を含む洗浄剤を使っていることです。ポリカーボネートは溶剤によ る応力割れに弱いため、穴の縁を仕上げ、広い座金を使い、熱膨張のすきまを取り、使用でき る洗浄剤を運転文書に明記します。
まとめ
樹脂部品は材料、工法、形状、荷重、環境、許容差、組立、保全を一つに考えます。軽いだけでなく、作れ、組め、測れ、保全でき、寿命中に信頼できる部品を設計します。
17. 寸法安定と基準面の考え方
加工、組立、温度、吸湿、保守を経ても意味を保つ基準面を選びます。センサのすきまが樹脂の 面に依存する場合、その面が基準面なのか、交換する摩耗面なのか、単なるカバーなのかを定義 します。必要なら金属インサート、突き当て、ブシュ、調整機構で安定させます。
18. 供給元へ渡す図面と初回品の確認
材料の等級、工法、収縮、表面、縁、インサート、締付トルク、検査、梱包を図面へ含めます。 初回品では寸法、反り、割れ、ばり、インサート、しぼ、機能を確認し、「見た目が良い」を合 格の基準にしません。
19. 薬品と洗浄剤との相性
洗浄剤、潤滑剤、切削油、接着剤、アルコール、油、工程で使う薬品を洗い出します。応力割れ、 膨潤、変色、摩擦の低下、残留物を、温度と時間を含めて試験します。
20. ライフサイクルと交換の基準
部品の改訂、材料、工法、供給元、代替品、使用限界、交換、点検、基準となる状態を記録しま す。供給元が等級や工法を変えたら、旧図面を自動で承認せず、寸法、荷重、環境、寿命を確認 し直します。
21. 樹脂部品のレビュー
- [ ] 材料と工法が、荷重と環境に合っている。
- [ ] 温度、吸湿、保守の後も、基準面と公差が安定している。
- [ ] 応力、クリープ、ねじ、摩耗、薬品、静電気を管理した。
- [ ] 供給元が、定義した形状を製作し検査できる。
- [ ] 初回品と寿命に関する証拠を、基準の記録として保存した。
22. 組立のばらつきを管理する
樹脂部品は、同じ図面でも成形条件、保管、温度、締付の順序、作業者の力で結果が変わります。 組立の作業標準に、向き、支持、締付トルク、すきま、測定、割れの確認、再調整、良品の判定 を入れます。締め付けでゆがみを作らないよう、部品を平らに置く方法と基準を示します。
23. 摩耗と交換のしやすさ
接触面が摩耗する場合、部品全体を捨てるのか、当て板、インサート、ブシュだけを替えるのか を設計で決めます。交換部品の識別、向き、調整、確認、在庫、廃棄、基準の記録を管理し、摩 耗の限界を「異音がするかどうか」だけで判断しません。
24. 清浄度と静電気
粉、ばり、油、静電気が製品やセンサへ影響する場合、材料、表面、洗浄、梱包、接地、取扱い を定義します。樹脂を選んだだけで静電気の危険が消えるとは限らないため、測定と出荷判定ま で含めます。
樹脂部品に関する証拠は、基準の記録として確実に保存します。
25. 供給元との初回品審査
寸法だけでなく、材料証明書、成形条件、反り、インサート、表面、質量、梱包、測定器、試験 片の数を確認します。重要な部位には写真、測定値、公差、確認者、改訂を残し、供給元が変わ ったときに同じ比較ができるようにします。
26. 故障後の原因究明と変更
割れ、クリープ、ねじ山の破損、変形が起きたら、材料、荷重、温度、取付、工具、洗浄、供給 元、設計公差を調べます。部品交換だけで終わらせず、故障モードの一覧、図面、保全手順、予 備品、検証、基準の記録へ、原因と処置を戻します。
27. 樹脂設計の証拠
最終図面、材料、工法、初回品、機能、寿命、環境、組立、保守、検査の証拠を一つの束にまと めます。次の担当者が、なぜこの樹脂を、この形状を、この公差を、この交換方法を選んだのか をたどれること。それが長期の耐久性の一部です。
公開参考資料
- ISO 178 — プラスチックの曲げ特性: https://www.iso.org/standard/70513.html
- ISO 527 — プラスチックの引張特性: https://www.iso.org/standard/75824.html
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