機械設計 #54:部品とフレームのアルミ選定 — 「アルミ」で一括りにしない
「アルミを使う」だけでは材料の指定になりません。A5052、A6061、A7075、そして板材、棒材、 鋳造材、押出形材は、強度、剛性、加工性、溶接性、表面処理、耐食性、熱膨張、費用、供給の どれもが違います。
機能 → 荷重・環境 → 合金と質別 → 工法 → 接合と公差 → 表面処理 → 検証 → 保全
1. 機能から始める
その部品がカバーなのか、支持金具なのか、基準面なのか、力を伝える部材なのか、動く部材な のか、熱を逃がす経路なのか、清浄な面なのか、摩耗する部品なのかを定義します。力、モーメ ント、振動、繰返し回数、剛性、たわみ、温度、腐食、清浄度、寿命を記録します。
2. A5052、A6061、A7075、押出形材は同じではない
A5052は曲げ加工と耐食に使いやすく、A6061は切削部品と構造部材のつり合いがよく、A7075は 強度が高い代わりに耐食性、溶接、費用、供給に制約があります。押出形材は骨組みを効率よく 作れますが、溝、断面、継手、表面という前提も設計事項です。合金、質別、素材形態、材料証 明書、供給元を正確に確認します。
3. 剛性と強度を分けて考える
アルミの縦弾性係数は鋼より低いため、降伏に対しては余裕があっても、センサのすきま、心出 し、密封、再現性を失うほどたわむことがあります。曲げ、ねじり、継手のすべり、支圧、座屈、 振動、熱による動きを確認します。
4. 切削加工の設計
基準面、取り代、締付、工具の届く範囲、薄い壁、ポケットの角、ばり、切りくず、変形、検査 を決めます。熱処理した板材は加工後に動くことがあります。基準面を守る支持の方法と、加工 の順序を指定します。
5. 溶接すると局部の状態が変わる
熱影響部、変形、残留応力、気孔、作業空間、溶接順序、溶接後の処理を考えます。溶接した A6061が母材と同じ強度を保つとは限りません。溶接施工要領、検査、溶接後の加工、合否基準を 定義します。
6. 締結部品と継手
ねじのはめあい長さ、支圧、抜け出し、異種金属の接触、締付力、すべり、インサート、座金、 作業空間、再使用を確認します。アルミのねじにはインサートが必要な場合があります。押出形材 の継手では、溝、摩擦、支持金具の剛性、締付トルクまで含めて考え、カタログの許容荷重だけ を信じないでください。
7. 表面処理は機能で選ぶ
陽極酸化、硬質皮膜、めっき、塗装、化成処理、素地のままでは、厚さ、公差への影響、耐摩耗性、 導電性、耐食性、外観、補修のしやすさが違います。処理前の基準面、マスキング、縁、色、検査、 手直しの条件を記録します。
8. 異種金属接触と環境による腐食
鋼、銅、ステンレス、炭素繊維、切削油、塩分、洗浄薬品と接触すると腐食します。絶縁座金、皮 膜、水抜き、密封、相性のよい締結部品、点検を考えます。外観がきれいでも、内部の継手が腐食 していることがあります。
9. 公差と熱膨張
アルミは温度で動き、鋼、ガラス、樹脂、精密部品とは膨張の量が違います。基準温度、固定側と 滑る側の継手、すきま、基準面、長穴、締付力、測定方法を決め、長い部材の両端を固定する前に 熱による応力を確認します。
10. 押出形材の骨組みの設計
支点間距離、たわみ、継手、ケーブルの経路、作業空間、防護、荷重、将来の改造を見て断面を選 びます。脚、レベル調整、斜材による剛性、パネル、振動、締付トルクを確認します。カタログで 大きな断面を選んでも、それだけで剛性が確保されるわけではありません。
11. 故障モード
降伏、たわみ、疲労、座屈、ねじ山の破損、継手のすべり、打痕、腐食、異種金属接触による腐食、 溶接割れ、変形、表面の傷、熱によるずれ、合金の取り違え、質別の混在、向きの誤り、締結部品 の誤選定を確認し、原因、影響、検出、管理方法、証拠を記録します。
12. アルミ骨組みの例
A6061の骨組みが視覚検査用のカメラと防護カバーを支えるとします。カメラには再現できる基準 面が、防護カバーには衝撃と作業空間が、骨組みには温度と振動が関わります。押出形材、切削し た板、溶接構造を比べ、継手の剛性、熱による動き、インサート、表面、ケーブル、調整、検査を 定義します。組立後、温度変化後、防護カバーの取外し後、保守後に、カメラの再現性を検証します。
13. 保守と交換
合金、質別、表面、基準面、締結部品、締付トルク、向きを表示します。継手と調整箇所へ手が届 くようにし、代替品と材料証明書を記録します。骨組みの部材を交換した後は、部品番号だけでな く、心出し、接地、防護、基準の状態も確認し直します。
14. アルミ選定のチェックリスト
- [ ] 機能、荷重、剛性、環境、寿命を定義した。
- [ ] 合金、質別、素材形態、材料証明書、供給元を管理している。
- [ ] 強度、たわみ、熱、疲労、継手を確認した。
- [ ] 切削、溶接、押出形材、変形、検査を計画した。
- [ ] 締結部品、インサート、締付力、異種金属の絶縁、作業空間を設計した。
- [ ] 表面処理、マスキング、公差、手直しを定義した。
- [ ] 故障モードに管理方法と証拠がある。
- [ ] 保守、交換、代替品、基準の記録を文書化した。
「アルミ」は材料の一族です。合金名と質別を一緒に読みます
図面に「アルミ」とだけ書くと、設計者しか判断できない三つの決定が現場に残ります。どの 合金か、どの質別か、どの素材形態かです。この三つで強度、溶接性、加工後の安定性、陽極 酸化後の色まで変わります。
| 合金系 | 代表的な材料 | 選ぶ場面 | 注意すべきところ |
|---|
| 5000系(Al-Mg) | A5052、A5083 | 治具板、カバー、曲げ加工品、溶接部品 | 熱処理では強化できない。強度は冷間加工の質別(H32、H34など)で決まる |
| 6000系(Al-Mg-Si) | A6061、A6063 | 切削部品、押出形材、骨組み | 溶接すると、溶接部の周囲で強化された状態が失われる |
| 7000系(Al-Zn) | A7075 | アルミの中で最も高い強度が必要な部品 | 溶接構造には使わない。耐食性が劣り、価格も高い |
| 応力除去済みの鋳造板 | 定盤用の板材 | 切削後も平面を保つ必要がある定盤やベース板 | 圧延板より高価。曲げ加工する部品には使わない |
質別の記号は合金名と同じくらい重要です。 A6061-T6とA6061-Oは、同じ合金名でも挙動 が異なる別の材料です。A5052-H32とA5052-Oも同様です。質別を書かないことは、大きな変数 を放置することになります。よく使う三つの材料の比較は 材料 #11 — アルミA5052、A6061、A7075 にあります。
強い合金に変えても骨組みは硬くなりません
アルミの骨組みや支持板の設計で、最も費用がかかる誤解です。アルミ合金は強度では大きく 違いますが、縦弾性係数はほぼ同じです。はりのたわみは縦弾性係数と断面二次モーメント で決まるため、A5052をA7075に変えてもたわみはほとんど減りません。
硬くしたいなら形状を変えます。断面の高さを増やす、リブを追加する、支点間の距離を短く する、あるいは閉じた箱形の構造にします。強い合金が効くのは降伏や疲労が問題のときで あり、たわみが問題のときではありません。同じ考え方は、押出形材の骨組みと溶接構造の 骨組みを比べるときにも当てはまります。 機械設計 #06 を参照してください。
残留応力:切削後に反るのは現場の失敗ではありません
圧延板は板厚方向に残留応力を持っています。片面を削ることはその釣合いを壊す行為であり、 板は機械の上で反ります。薄く長い部品で、材料を片側から多く削る場合に最も強く出ます。
試す順序で四つの対策があります。
- 両面を対称に削り、部品が落ち着いてから最後の仕上げに取り代を残します。
- 二回の段取りに分け、荒加工のあと一度締付を緩めて応力を解放してから仕上げます。
- 平面が必要な定盤やベース板は応力除去済みの鋳造板に変えます。
- 締付方法を見直します。反った状態で締めて平らに削れば、外したときに逆へ反ります。
鋼における同じ仕組みは 材料 #09 — SS400とSS400-D で説明しています。
溶接と陽極酸化は、合金選定と同時に決めます
溶接。 5000系は溶接しやすい材料です。6000系も溶接できますが、熱影響部で強化された 状態が失われるため、溶接部は最も強い場所ではなくなります。設計では応力の高い場所から 溶接部を離すか、焼きなまし状態で計算します。7000系は溶接構造には使いません。
陽極酸化。 皮膜は素地の内側にも外側にも成長するため、精密な穴や軸の公差を食います。 明記すべきことは三つです。寸法が処理前か処理後か、皮膜を付けない面はどこか(導電のため の接触面、測定基準面)、ねじはどう扱うか(マスキングするか、処理後にタップを立て直すか) です。外観については、合金によって発色が異なるため、並べて使う部品は合金と処理ロットを そろえる必要があります。
よくある質問
図面に「アルミ」とだけ書けば十分ですか
不十分です。A6061-T6、A5052-H32のように合金名と質別を書き、結果に影響する場合は素材の 形態(圧延板か応力除去済みの鋳造板か)も書きます。この三つがないと、図面は同じままでも ロットごとに違う結果になり得ます。
強い合金に変えれば定盤のたわみは減りますか
ほとんど減りません。アルミ合金の縦弾性係数はほぼ同じだからです。断面の高さを増やす、リ ブを追加する、支点間を短くするほうが有効です。強い合金が効くのは降伏や疲労が問題のとき だけです。
切削後に反ったアルミ部品はどう扱いますか
原因は多くの場合、素材の残留応力が材料除去で解放されたことです。両面を対称に削る、締付 を緩める工程を挟んで二回の段取りに分ける、最後の仕上げに取り代を残す、応力除去済みの鋳 造板に変える、のいずれかで対応します。これは設計の判断であり図面に書きます。
溶接する部品にはどの合金を選びますか
5000系を優先します。6000系を使わざるを得ない場合は、溶接部の周囲が強化された状態を保て ないことを前提に、応力の高い場所から溶接部を離します。7000系は溶接構造には使いません。
陽極酸化は公差にどう影響しますか
皮膜が素地の内側にも外側にも成長するため、穴は小さく、軸は大きくなります。図面には、寸 法が処理前か処理後か、どの面をマスキングするか、ねじは処理後にタップを立て直すかを明記 します。
まとめ
アルミの選定は材料名を決めることではなく、機能と工法を決めることです。合金、質別、素材形態、継手、表面処理、環境、公差、保全を比べ、実際の組立で検証します。理由があって軽く、寿命の間ずっと安定している部品と骨組みを設計します。
15. 図面と材料証明書
合金、質別、素材形態、板厚、表面、熱処理、供給元、材料証明書、検査、追跡可能性を、図面 または管理された仕様書へ入れます。表題欄の「アルミ」だけでは、交換のときにも監査のとき にも足りません。
16. 断面より先に継手を設計する
骨組みは、部材、支持金具、締結部品、脚、パネル、荷重からなる一つの系です。継手の剛性、 すべり、締付力、作業空間、再使用、ケーブル、接地、防護の取付を確認します。大きな押出形材 を使っても、柔らかい継手や締付不足を補うことはできません。
17. 切削、溶接、押出形材の比較
切削した板は基準面と、まとまった剛性を作れますが、変形と材料の無駄があります。溶接構造は 効率がよい代わりに、施工要領、変形の管理、検査、局部の強度への配慮が必要です。押出形材は 組替えやすさを作れますが、補強板、インサート、溝を使った継手の管理が必要になります。
18. 熱と環境の試験
基準温度と最も厳しい温度、洗浄、防護カバーの取外し、保守の後に、基準面、センサ、防護カバ ー、密封、動く接点を測定します。測定器、条件、試験片、合否基準を保存し、室温での測定だけ で終わらせません。
19. アルミ部品の故障レビュー
疲労、継手の緩み、腐食、異種金属接触による腐食、ばり、質別の誤り、表面の傷、熱によるずれ、 交換部品の取り違えを故障モードの一覧で確認し、図面、組立、検査、予備品、基準の記録へ結び 付けます。
20. 材料変更の管理
供給元が合金、質別、押出材の調達先、皮膜、締結部品を変えるときは、技術資料を比較し、荷重、 たわみ、腐食、継手、表面、寿命を確認し直します。商品名だけで置き換えないでください。
21. 材料の基準記録と保全
合金、質別、表面、基準面、締結部品、締付トルク、交換時の向き、材料証明書を、設備台帳と基準 の記録へ登録します。骨組みの部材を交換した後は、心出し、接地、防護、センサの再現性、文書、 予備品も確認し、部品番号だけで出荷判定としません。
公開参考資料
- アルミニウム協会 — アルミニウムの規格と特性: https://www.aluminum.org/
- ISO 6892-1 — 金属材料の引張試験: https://www.iso.org/standard/78322.html
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