機械設計 #86:材料名の標準化 — 同じ材料を五通りに呼ばない
材料名標準化は境界が変わっても明確で、製造、検索、検査、保全ができなければならない。
名称より先に機能
名称、刻印、材料、注記を決める前に、機能、入力、期待結果、故障症状、合否限界、測定方法を書く。全ての値に担当を付ける。
基本チェック
- 材料記号、規格、質別: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- 社内呼称と供給元呼称の対応: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- 代替の規則と、その承認: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- 図面、部品表、購買、材料証明書の一致: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- 熱処理または表面の状態: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- 追跡可能性と、監査に使える証拠: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
| 故障モード | 症状 | 確認 |
|---|
| 識別が曖昧 | 部品・記録が違う | 実ロットを検索・監査 |
| 接点を省略 | 購入・組立・保全で誤り | 実工程を確認 |
| 文書が不一致 | 名称は正しいが改訂違い | 全資料を基準化 |
材料の書き方:五つの要素。欠けた要素の分だけ壊れます
表題欄の材料の欄は、五つの問いに答えられなければなりません。どれかが欠けると、現場は自分の習慣で埋め ることになり、次のロットは前のロットと違う結果になり得ます。
| 要素 | 正しい記入例 | 欠けるとどうなるか |
|---|
| 材料記号 | A6061、SUS304、S45C | 「アルミ」「ステンレス」「鋼」は材料の一族であって記号ではない |
| 適用規格 | JIS H 4000、JIS G 4051 | 同じ記号でも規格体系によって意味が違うことがある |
| 質別 | A6061-T6、A5052-H32、SS400-D | 軟らかいA6061-OはA6061-T6とまるで違う。SS400-Dは熱間圧延のSS400と違う |
| 要求する硬さ(熱処理する場合) | 焼入れ後 60±2 HRC | 熱処理業者はどこまで焼戻すか分からない |
| 表面処理と覆う範囲 | 黒アルマイト、ねじ部マスキング | 皮膜で寸法が変わり、部品が組み付かなくなる |
よくある四つの誤った書き方
| こう書くと | 問題点 | こう書く |
|---|
| 「アルミ」 | 強度、溶接性、成形性、価格の違う三つの合金系がある | A5052-H32、A6061-T6、A7075-T6 |
| 「ステンレス」 | 切削性、溶接性、耐食性が大きく違う | SUS303(切削が多い)、SUS304(溶接と成形)、SUS316(腐食が厳しい) |
| 精度の要る面に「SS400」 | 熱間圧延で黒皮と残留応力があり、切削後に反りやすい | 明るい表面と精度のよい素材が要るなら SS400-D |
| 質別のない「A6061」 | 質別が強度と曲げやすさを決める | A6061-T6(強い)、曲げるなら軟らかい質別 |
代替材料:口頭ではなく表で承認します
素材が手に入らないという理由で現場から材料変更の提案があったとき、判断は出典のある対比表に基づかせ、 その部品が必要としている性質を改めて確認します。「同じ工具鋼だから」で済ませてはいけません。よく使う 工具鋼の例です。
| JIS記号 | 相当材 | 置き換えても保たれるべき性質 |
|---|
| SKD11 | D2(AISI)、X210Cr12(DIN) | 冷間での耐摩耗性と、焼入れ後の寸法安定性 |
| SKH51 | M2(AISI)、HS6-5-2(ISO/DIN) | 高温での硬さ — これを失うことは、選んだ理由そのものを失うこと |
切削工具でSKH51をSKD11に置き換えることは、その材料を選んだ理由である性質をまさに変えてしまうことです。 対比表は「この部品はどの性質を必要としているか」という問いと組にして使うべきで、名前を横に引くだけの道 具ではありません。
各材料の詳細は材料の連載にあります。 #09 SS400とSS400-D、 #10 SUS303とSUS304、 #11 アルミA5052、A6061、A7075、 #12 SKD11とSKH51。
材料証明書:いつ必要で、どの種類が必要か
正しい材料記号を書くのは半分です。残りの半分は、その素材が本当にその材料であることを示すこ とです。荷重を受ける部品、圧力を受ける部品、安全に関わる部品では、供給元の言葉は記録の代わりに なりません。
| 証明の水準 | 内容 | 使う場面 |
|---|
| 適合の宣言 | 供給元が材料記号の適合を表明する。測定値はない | 荷重を受けない副次的な部品 |
| ミルシート(検査証明書) | そのロットの化学成分と機械的性質 | 荷重を受ける部品、溶接構造の部品 |
| 第三者立会いの証明書 | 上に加えて独立した確認が付く | 契約要求、圧力機器、規制のある輸出品 |
最も混同されやすい点です。適合の宣言は、数値のある証明書ではありません。「材料記号は合って いる」とは言いますが、納入するロットの成分値や機械的性質は示しません。荷重を受ける部品では、そ れは大きな空白です。
図面に証明書の要求を書かなければ、供給元は最も安い水準、たいてい表の一番上の水準で納めます。こ れは書き出すべき要求であり、既定で付いてくるものではありません。
ロットの追跡:素材から機械までの糸をつなぐ
ある材料ロットに問題が見つかったとき、重要な問いは一つだけです。そのロットの素材を使った機械 はどれか。答えるには、途切れない糸が必要です。
- 受入時に素材へロット番号を記録する。
- 素材を切断するとき、ロット番号を各部品へ移す。刻印、ラベル、あるいはロット票による。
- 部品の製作記録へロット番号を記入する。
- 出荷記録で、部品を機械の製造番号と結び付ける。
どこか一段でも切れれば追跡はできません。最も切れやすいのは二段目です。一本の素材が複数の部品に 切り分けられ、ロット番号は端材のほうに残ります。
どの部品に追跡が必要かは図面に明記します。表示と記録の手間が増え、現場はそれを価格に織り込むた めです。すべての部品に追跡を求めることは、不要に価格を上げる方法です。
緊急時の代替材料
機械が止まっており、正しい材料の素材がなく、倉庫に同等とされる材料がある。合意する前に答えるべ き問いが三つあります。
- この部品にとって決定的な性質はどれか。 強度、靱性、耐食性、寸法安定性、溶接性のどれか。
- 代替材はその性質を保つか。 出典のある対比表で確認します。記憶で判断しません。
- この変更は一時的か恒久的か。 一時的なら部品に表示し、戻す期限を記録します。
そして決定を変更票に書きます。深夜の現場での口頭合意は、半年後に誰もその部品の材質を知らなくな る確実な方法です。
MINATA発行チェック
- [ ] 機能、識別、境界、故障症状を記載した。
- [ ] 責任、接点、誤操作防止が明確である。
- [ ] 六項目に証拠と合否限界がある。
- [ ] 製造、購買、検査、保全を実機で試した。
- [ ] 改訂、サプライヤー、データ、履歴が一致する。
良い設計は、製造、運転、保全、変更を通過する前提の連鎖である。材料名標準化では、識別と機能が信頼できる証拠を残すことがMINATAの基準である。
よくある質問
「A6061」と書けば十分ですか
まだ足りません。質別を併記します。焼きなましたA6061-Oと、溶体化して時効させたA6061-T6では、強度も曲げ やすさもかなり違います。記号だけで質別を書かないことは、情報の半分を空欄にすることです。
SS400とSS400-Dは何が違いますか
材料記号ではなく素材の状態が違います。熱間圧延のSS400には黒皮があり、素材の精度も低いため加工の取り代 が要ります。冷間仕上げのSS400-Dは表面が明るく素材の精度も高いため、加工しない面にそのまま使えます。代 わりに価格が上がり、非対称な切削での反りに注意が要ります。
「ステンレス」と書いてもよいですか
避けてください。SUS303は削りやすい代わりに溶接には向かず、SUS304は溶接と成形に向く代わりに削りにくく、 SUS316は耐食性がより高い材料です。「ステンレス」と書くことは、設計に属する判断を現場に委ねることです。
素材切れで現場から材料変更を求められたら
出典のある対比表で承認し、その部品が必要とする性質を改めて確認します。高温での硬さ、溶接性、耐食性、寸 法安定性のどれかです。判断は図面か変更票に記録し、現場での口頭合意で済ませません。
適用規格も書く必要がありますか
重要な部品や、複数の規格体系にまたがる仕事では書くべきです。S45C / JIS G 4051 と書くほうが、書類が複 数の関係者を回るときに明確であり、同じ記号を別の体系で読まれる事故を防げます。
よくある質問(続き)
適合の宣言は材料証明書として十分ですか
荷重を受ける部品には不十分です。「材料記号は合っている」とは言いますが、納入ロットの成分値や機 械的性質を示しません。荷重を受ける部品には、そのロットの数値があるミルシートを要求します。
証明書の要求を書かないとどうなりますか
供給元は最も安い水準で納めます。証明書の要求は図面か注文書に書き出すべきものであり、既定で付い てくるものではありません。
ロットの追跡はどこで最も切れやすいですか
切断の段階です。一本の素材が複数の部品になり、ロット番号は端材に残ります。糸をつなぐには、刻印、 ラベル、ロット票のいずれかで番号を各部品へ移します。
すべての部品に追跡を求めるべきですか
いいえ。追跡は表示と記録の手間を伴い、現場はそれを価格に織り込みます。本当に必要な部品、つまり 荷重を受ける部品、安全に関わる部品、規制のある部品に限って求めます。
緊急時に代替材を認めるとき、何を記録しますか
変更票に記録します。その部品にとって決定的な性質、代替材と対比表の出典、一時的か恒久的か、一時 的なら戻す期限です。現場での口頭合意は、半年後に誰も材質を知らなくなる確実な方法です。
まとめ
材料名の標準化は、書類を整えるための手続きではない。設計意図を、繰り返し製作でき、組み立てられ、測定できる結果へ変えるための手段である。良い図面は、設計者がそばで説明しなくても伝わる。情報の構成そのものがその役割を果たさなければならない。
MINATAの技術記事をすべて見る