機械設計 #87:方向性のある材料 — 表裏と目方向を部品に合わせる
方向性材料は境界が変わっても明確で、製造、検索、検査、保全ができなければならない。
名称より先に機能
名称、刻印、材料、注記を決める前に、機能、入力、期待結果、故障症状、合否限界、測定方法を書く。全ての値に担当を付ける。
基本チェック
- 材料の方向と、機能上の荷重: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- 表と裏、および表面の状態: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- 図面上の圧延方向または繊維方向: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- 切断、成形、曲げ、組立での向き: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- 印の付け方と、供給元での検査: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- 向きを誤ったときの廃棄または手直しの規則: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
| 故障モード | 症状 | 確認 |
|---|
| 識別が曖昧 | 部品・記録が違う | 実ロットを検索・監査 |
| 接点を省略 | 購入・組立・保全で誤り | 実工程を確認 |
| 文書が不一致 | 名称は正しいが改訂違い | 全資料を基準化 |
「方向」には四種類あり、取り違えると書く場所を間違えます
材料に方向があると言うとき、設計者、加工現場、検査担当はしばしば別のものを指していま す。四つをまとめて一つの注記で済ませることは、各者が別々に解釈する最短の道です。
| 方向の種類 | 何を決めるか | 確認できる書き方 |
|---|
| 板金の圧延方向 | 方向ごとの強度と靱性、曲げて割れるかどうか | 展開図に圧延方向の矢印を入れ、曲げ線との関係を示す |
| 表面の目(ヘアライン、ブラシ、方向性のある研磨) | 板を並べたときの外観 | 見える面に目の方向の矢印を入れ、観察条件を併記する |
| 板の表と裏 | 保護フィルムの面、塗装される面、基準面はどれか | 図に面の名称を書き、機能に影響しない位置へ印を付ける |
| 繊維方向や押出方向(複合材、押出樹脂) | 方向ごとの強度と変形、熱による伸縮の向き | 部品の軸に対する繊維方向または押出方向を明示する |
最初の三つは同じ部品に同時に現れることがあり、必ずしも同じ向きとは限りません。ヘア ラインのステンレス板では、目の方向は表面処理の工程で決まり、圧延方向は素材で決まります。 機能上どちらも必要なら両方を書き、その要求が購入している素材で実現できるかを確認します。
曲げ:曲げ線と圧延方向の関係
ここから先、材料の方向は外観の話ではなく、割れるか割れないかの話になります。曲げ線が 圧延方向と平行な場合、曲げの外側が割れやすくなります。曲げ線が圧延方向と直角な 場合は、材料にとって曲げやすい条件になります。
板金部品を設計するときの帰結です。
- 直角に交わる二方向へ曲げ線がある部品では、両方を最適にはできません。機能上どちらが重
要かを選び、その優先順位を書きます。
- 材料が硬いほど、板厚が大きいほど圧延方向の影響が強く出ます。最小曲げ半径は、材質、板
厚、曲げ方向を含めて供給元の表から取ります。
- 引張側にばりや粗い破断面が残っていると、はるかに早く割れます。切断と曲げでよくある板
金の失敗は 機械設計 #27 にあります。
圧延方向の指定は価格を上げるので、理由がある場所だけに書きます
図面が圧延方向を固定すると、板取りの際に部品を回す自由が失われます。板取りの効率が下が り、端材が増え、小物を多数含む注文では見積に差が出ます。そこで図面上で分類します。
- 必須 — 繰返し荷重を受ける部品、最小半径に近い曲げがある部品、組立時に並ぶ外観面。
- 指定なし — 荷重が軽い部品、機内に隠れる部品、見える面のない部品。
二つ目の分類を「圧延方向の指定なし」と明記することにも、指定と同じ価値があります。現場 に対して、どこは最適化してよいかを示すことになり、推測や問合せが減ります。
印は組立まで残らなければ意味がありません
図面の矢印は、部品が図面のそばにある間しか働きません。切断された後の対称な平板は、どち らが表かを自分では示しません。確実な順に三つの方法があります。
- 位置をずらした位置決め穴や角の面取りなど、非対称な形状を設けて一方向にしか入らないよ
うにします。人に依存しないため最も確実です。
- 機能にも高応力部にも影響しない位置へ刻印します。
- 見える面の保護フィルムを最終組立まで残し、そのことを文書に書きます。
外観の要求では、「きれい」を測れるものに変える必要があります。検査時の観察距離、角度、 光源を規定し、限度見本で各者の合格水準をそろえます。日本の現場での限度見本の呼び方と使 い方は 技術日本語 #10 にあります。
鍛造品の鍛流線:切削で断ち切ってしまえるもの
鍛造では金属が塑性変形するため、結晶粒が流れの方向へ伸び、鍛流線ができます。鍛流線が部品の 形に沿って走ることが、同じ形を丸棒から削り出した部品より鍛造品が強い理由です。
見落とされやすい点があります。鍛造の後の切削は、鍛流線を横切ってしまうことがあるのです。削 り出した面には繊維の端が現れ、繰返し荷重を受ける場所であれば、そこが疲労き裂の起点になります。
| 作り方 | 鍛流線への影響 |
|---|
| 最終形状に近く鍛造し、合わせ面だけ仕上げる | 鍛流線が輪郭に沿い、鍛造の利点が保たれる |
| 粗い素形材を鍛造し、削って形を作る | 多くの箇所で鍛流線が断たれ、利点の大部分が失われる |
| 圧延丸棒から削り出す | 鍛流線は棒の軸に沿って直線で、部品の形には沿わない |
図面を出す側への帰結です。強度のために鍛造を選んだのなら、重要部での鍛流線の要求を明記し、 その部分の削り代を制限します。「鍛造品」とだけ書いて現場に自由に削らせることは、鍛造の代金を払 って、削り出しとほとんど変わらない部品を受け取ることです。
鋳物:凝固の方向と、引けが集まる場所
鋳物には鍛造の意味での鍛流線はありませんが、結果として同じ働きをするものがあります。凝固の方 向です。金属は外側から内側へ、薄い部分から厚い部分へと冷えるため、厚い部分が最後に固まり、そ こに引け巣が集中します。
設計側で決められることが三つあります。
- 肉厚を均一に、あるいは徐々に変えて、孤立した厚い塊を内部に作らないこと。
- 精度の要る合わせ面をどこに置くか。 早く固まる領域に置き、厚い塊の上には置かないこと。
- 押湯や湯口の位置。機能が許す範囲で鋳造工場と相談しますが、それらを置ける自由度は部品の形状
が大きく左右します。
圧力や荷重を受ける鋳物では、内部欠陥の許容水準と検査方法を明記します。これは要求であって、既定 で付いてくるものではありません。
積層材と繊維強化材
複合材や積層材では、繊維の方向が方向ごとの強度を、金属よりはるかにはっきり決めます。図面に書く べきことが三つあります。
- 各層の順序と方向。 「複合材」とだけ書かないこと。
- 切断面の処理。 切断は繊維の端を露出させ、開いた端は水分の侵入口になります。
- 穴あけ。 穴あけは繊維を断つため、穴の周囲は明らかに弱くなります。荷重を受ける部品では重要
部に穴を置かないか、穴の周囲を補強します。
MINATA発行チェック
- [ ] 機能、識別、境界、故障症状を記載した。
- [ ] 責任、接点、誤操作防止が明確である。
- [ ] 六項目に証拠と合否限界がある。
- [ ] 製造、購買、検査、保全を実機で試した。
- [ ] 改訂、サプライヤー、データ、履歴が一致する。
良い設計は、製造、運転、保全、変更を通過する前提の連鎖である。方向性材料では、識別と機能が信頼できる証拠を残すことがMINATAの基準である。
よくある質問
圧延方向と表面の目は同じものですか
違います。圧延方向は素材の圧延で決まり機械的性質に影響します。表面の目は表面処理の工程 で決まり外観に影響します。同じ板でも向きが異なることがあるため、機能上どちらも必要なら 両方を書きます。
表の最小曲げ半径どおりなのに端が割れるのはなぜですか
三点を確認します。曲げ線が圧延方向と平行になっていないか、引張側の切断面にばりや粗い破 断面が残っていないか、使っている表が材質と板厚に合っているかです。最小半径は板厚だけで なく曲げ方向にも依存します。
すべての板金部品に圧延方向を指定すべきですか
そうではありません。指定は板取りの効率を下げ、費用を上げます。繰返し荷重を受ける部品、 限界に近い曲げがある部品、並ぶ外観面に限って指定し、それ以外は指定なしと明記します。
組立で表裏を逆に付けないようにするには
形状を優先します。位置をずらした位置決め穴や角の面取りで、一方向にしか入らないようにし ます。刻印と保護フィルムは二層目の対策であり、いずれも人の作業に依存するため、それだけ に頼りません。
外観の要求はどう書けば検査できますか
観察距離、角度、光源という観察条件を書き、各者が合意した限度見本と結び付けます。検査条 件のないまま「表面がきれいで均一なこと」と書くと、検査するたびに結果が変わります。
よくある質問(続き)
鍛造品は削り出しより必ず強いのですか
自動的にそうなるわけではありません。利点は鍛流線が部品の形に沿うことから来ます。鍛造後に荷重を 受ける部分を大きく削り、鍛流線を横切ってしまえば、その利点の大部分は失われます。
図面に「鍛造品」と書けば十分ですか
強度のために鍛造を選んだのなら不十分です。重要部での鍛流線の要求と、その部分の削り代の制限を書き ます。書かなければ、鍛造の代金を払って削り出しと大差ない部品を受け取ることになります。
鋳物の引け巣はどこに集まりますか
最も厚い部分です。そこが最後に固まるためです。設計側は肉厚を均一に、あるいは徐々に変えること、そ して精度の要る合わせ面を早く固まる領域に置くことで危険を下げます。
複合材の穴あけは金属と何が違いますか
穴あけが繊維を断つため、穴の周囲が明らかに弱くなります。金属では穴は断面を減らすだけですが、複合 材では違います。荷重を受ける部品では重要部に穴を置かないか、周囲を補強します。
積層材の図面には何を書きますか
各層の順序と方向、切断面の処理、そして穴あけの要求です。「複合材」とだけ書くことは、機械的性質を 決める部分をほぼすべて空欄にすることです。
まとめ
方向性のある材料は、書類を整えるための手続きではない。設計意図を、繰り返し製作でき、組み立てられ、測定できる結果へ変えるための手段である。良い図面は、設計者がそばで説明しなくても伝わる。情報の構成そのものがその役割を果たさなければならない。
現場のための早見表
向きの扱いは、状況・示し方・目的を対応づけると決めやすくなります。
| 状況 | 示し方・制御の仕方 | 目的 |
|---|
| 目のある板や保護フィルム | 見る面と目の向きを矢印で示す | 外観を揃える |
| 圧延材や複合材 | 荷重を受ける繊維方向を指定する | 方向による強度低下を防ぐ |
| 光学部品 | 表面と裏面を明示する | 光学機能を正しく保つ |
実際の場面
同じ材料でもヘアラインの向きが90度違う二枚を並べて組むと、はっきりした差が出ます。目の向きの矢印は、共通の注記だけで済ませず、図面にも現品にも入れておく必要があります。圧延材では、目方向が荷重方向とずれると、見た目だけでなく強度も方向によって変わってしまいます。光学部品では、表裏の取り違えが機能そのものを損なうため、現品への表示を省いてはいけません。
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