機械設計 #80:補助寸法記号 — 一つの誤記号が加工方法を変える
補助寸法記号は境界が変わっても読め、作れ、検査でき、保全でき、安全でなければならない。
機能から始める
投影、記号、形状、注記を決める前に、入力状態、期待結果、許容限界、故障症状、測定方法を書く。不明点を大きな係数に隠さず、担当と試験を決める。
基本チェック
- 記号の機能と、影響を受ける工程: 記号が現場に何を約束させるのかを把握する。記号は注記と同じように工程を決めてしまう。
- 基準となる稜線、データム、測定方向: 基準となる稜線、データム、測定方向を示す。基準のない記号は二通りに読める。
- 切削、成形、溶接、検査における意味: 同じ記号でも、切削、成形、溶接、検査で意味と費用が変わる。どの工程に効く記号かを確認する。
- 供給元の解釈と、その確認: 供給元が意図どおりに記号を読んでいるかを、最初の一個を削る前に文書で確認する。
- 規格およびモデルとの整合: 記号は表題欄に記した規格と、三次元モデルの両方と整合させる。
- 発行前の確認の証拠: 誰が、どの規格に照らして、どの改訂で確認したのかという記録を残す。
故障モード
| 故障モード | 症状 | 確認 |
|---|
| 意味が曖昧 | 加工・検査が違う | 規格と証拠を確認 |
| 接点を省略 | 組立・保全で誤り | 実工程を確認 |
| 文書が不一致 | 名称は正しいが改訂違い | 全資料を基準化 |
記号は飾りではありません。どんな形状かを現場へ伝えるものです
図面上の数字は、それが何を測った値かを読む人が知っていて初めて意味を持ちます。値の前に置く記号が その役割を担っており、記号を取り違えると加工方法も測定器も変わります。
| 記号 | 意味 | 取り違えたときに困る点 |
|---|
| ⌀ 直径 | 円筒や穴の中心を通る寸法 | 書き忘れると直線の長さと読まれ、形が違って作られる |
| R 半径 | 円弧。中心から測る | RとΦの取り違えは寸法が二倍違う結果になる |
| S⌀・SR 球 | 球であり、円筒でも平面上の円弧でもない | 測定器がまったく違う。取り違えれば形が違う |
| □ 正方形 | 正方形の断面。一つの値で両辺を表す | 書き忘れると問合せになるか、二重に寸法が入る |
| t 厚さ | 板や壁の厚さ | 書かないと投影図から推測することになり、読み違えやすい |
| C 面取り | 45度の面取り。値は辺の長さ | Rと取り違えると縁の形が変わる |
| ( ) 参考寸法 | 参考のためだけで、受入の判定には使わない | 検査基準に使うと二重検査と議論の原因になる |
| [ ] 理論的に正確な寸法 | 幾何公差と組で使い、上下の許容差を持たない | 上下の許容差を足すと幾何公差の枠と矛盾する |
| n× 個数 | 同じ特徴の数 | 抜けると図の上で数えることになり、見落としやすい |
面取りと丸みの記号、および取り違えたときの落とし穴は 機械設計 #106 で扱っています。日本の図面でこの記号群を読む方法は 技術日本語 #03 にあります。
特に間違えやすい三つの群
参考寸法。 かっこは「読む人が形を思い描くために添えた」という意味であり、受入の要求ではありま せん。検査するほど重要な寸法なら、かっこを外して許容差を付けます。ほかの寸法から導かれる結果にす ぎないなら、かっこに入れて検査を求めないことです。同じ関係を二通りに書くことは、図面と検査成績書 が食い違う典型的な原因です。
理論的に正確な寸法。 位置のばらつきを幾何公差で管理するとき、特徴の位置を決めるために使います。 それ自身は上下の許容差を持たず、許容差は枠の中にあります。上下の許容差を付け足すと、一つの特徴に 二つの規則を与えることになります。機能に基づく公差の配分は 機械設計 #97 にあります。
段付きの穴。 ねじ頭を沈めるための座ぐり、皿ねじ用の面取り、ねじの深さなど、いくつもの情報が連 なります。直径、深さ、次に付随する特徴、という順序で一行にまとめて書くほうが、図の周りに数字を散 らして読む人に組み立てさせるよりずっと確実です。
記号の位置と、二重寸法を避ける方法
- 記号は値の前に置きます。後ろではなく、共通注記へ移すこともしません。
- 一つの特徴を定義する場所は一か所にします。全長が各区間の合計で決まっているなら、全長は参考寸
法にします。逆でもかまいません。
- 寸法は、その特徴の形が最もよく分かる図に記入します。穴の直径は円に見える図へ、深さは断面図へ
記入します。
- 文字と数字の読む向きは図面全体で統一します。現場では図面が回されて置かれるためです。
公差の書き方は四通り、それぞれ別のことを言っています
記号はその数値が何を測っているかを示し、公差はどれだけずれてよいかを示します。書き方は四通 りあり、互いに置き換えられません。
| 書き方 | 例 | 使う場面 |
|---|
| 対称 | 50 ±0.1 | どちら側へのずれも同じように許せる。機能上の優先がない |
| 非対称 | 50 +0.2 / −0.05 | 片側へのずれのほうが機能上許容できる |
| 片側 | 50 +0.3 / 0 | 一方向にしかずれを許さない。深さや最小すきまでよく使う |
| 上下の限界寸法 | 50.3 / 50.0 | 検査側が加減算せず、二つの限界と直接比べられる |
最後の書き方は、符号を間違えやすい箇所で価値があります。検査する人は測定値を二つの限界と比 べるだけで、暗算が要りません。現場での暗算は一回ごとに誤りの機会です。
非対称の公差は、あまり使われていない費用削減の手段です。 穴が小さいのは困るが大きいのは 困らないなら、±0.15より+0.3 / 0のほうがはるかに作りやすくなります。機能上の保証は同じで、害 のない側にだけ合格範囲を広げているからです。
普通公差:個別指示のないすべての寸法に適用されるもの
図面の隅には必ず、普通公差の等級を書きます。長さ寸法、角度、丸みや面取りにそれぞれの等級を 記載します。これがないと、個別に公差を書いていない寸法はすべて未定義になり、各社が自社 の既定値を当てはめます。
この一行でよく抜ける三点です。
- 角度の等級は長さ寸法の等級とは別です。書き漏らすと角度は自由寸法になります。
- 加工しない寸法(鋳肌、レーザ切断の縁)には、より広い専用の等級が要ります。
- 表面処理後の寸法 — 普通公差が処理前と処理後のどちらに適用されるかを明記します。
同じ形体に公差を重ねない
一つの形体を管理する仕組みは一つにします。よくある重なりが三つあります。
| 重なり | なぜ誤りか |
|---|
| 枠に入れた理論的に正確な寸法に、上下の許容差も付ける | 公差は幾何公差の枠の中にすでにある |
| 寸法の連鎖と全体寸法の両方に公差を付ける | 全体が連鎖と矛盾する。どちらかを参考寸法にする |
| 普通公差で十分な箇所に個別の公差を付ける | 余分であり、検査する項目を一つ増やすだけ |
発行前の手早い確認方法です。個別の公差を持つ寸法ごとに、「この一行を消したら、この形体は何 で管理されるか」と問います。「それでも十分に管理される」なら、その一行は余分です。
MINATA発行チェック
- [ ] 機能、境界、故障症状を記載した。
- [ ] 基準、責任、誤操作防止が明確である。
- [ ] 六項目に証拠と合否限界がある。
- [ ] 製造、組立、検査、保全を実機で試した。
- [ ] 改訂、サプライヤー、構成記録が一致する。
良い設計は、製造、運転、保全、変更を通過する前提の連鎖である。補助寸法記号では、結果が継続する証拠を残すことがMINATAの基準である。
よくある質問
かっこ付きの寸法は測る必要がありますか
ありません。読む人が形を思い描くために添えた参考寸法です。検査するほど重要なら、かっこを外して許 容差を付けます。ただしそのときは、同じ関係を決めている別の寸法を一つ外し、一つの特徴に二つの規則 ができないようにします。
四角で囲んだ寸法は普通の寸法と何が違いますか
幾何公差と組で使う理論的に正確な寸法です。それ自身は上下の許容差を持たず、許容差は幾何公差の枠の 中にあります。上下の許容差を付け足すと矛盾が生まれます。
直径の記号を書き忘れるとどうなりますか
読む人がその数字を直線の長さと解釈し、部品の形が違って作られます。防ぐのは安く、直すのは高い誤り なので、発行前の必須確認項目に入れます。
面取りはCで書きますか、二つの寸法で書きますか
45度のときはCで書きます。45度でない面取りは辺の長さと角度で書きます。Cの記号ではその場合を表せな いためです。
段付きの穴はどう書けば簡潔ですか
直径、深さ、次に座ぐりの直径と深さ、という順序で一行にまとめます。図の周りに数字を散らす書き方に 比べ、別の穴の情報と取り違える可能性が下がります。
よくある質問(続き)
非対称の公差はいつ使いますか
機能上、片側へのずれだけが困る場合です。穴が小さいのは困るが大きいのは困らないなら、±0.15よ り+0.3 / 0のほうが作りやすく、機能の保証は同じです。あまり使われていない加工費削減の手段です。
上下の限界寸法で書く利点は何ですか
検査する人が計算せず、二つの限界と直接比べられることです。符号を間違えやすい箇所や非対称の公 差では、計算の段階が一つ消えます。現場での暗算は一回ごとに誤りの機会です。
普通公差の記載がないとどうなりますか
個別に公差を書いていない寸法がすべて未定義になり、各社が自社の既定値を当てはめます。同じ図面 でも、二社から届いた二ロットが違う結果になり得ます。
普通公差は角度にも適用されますか
角度の等級を別に書いた場合だけです。長さ寸法の等級が自動的に角度へ及ぶことはありません。この 部分を書き漏らした図面は多く、角度は気付かないうちに自由寸法になります。
余分な公差の一行はどう見分けますか
「この一行を消したら、この形体は何で管理されるか」と問います。普通公差、幾何公差の枠、別の寸 法の連鎖のいずれかで十分に管理されるなら、その一行は余分であり、検査項目を増やすだけです。
まとめ
補助寸法記号は、書類を整えるための手続きではない。設計意図を、繰り返し製作でき、組み立てられ、測定できる結果へ変えるための手段である。良い図面は、設計者がそばで説明しなくても伝わる。情報の構成そのものがその役割を果たさなければならない。
現場のための早見表
判断は、状況・表し方・目的を具体的に対応づけると下しやすくなります。
| 状況 | 表し方・制御の仕方 | 目的 |
|---|
| R、⌀、SR、S⌀ | 正しい形状の種類を選ぶ | 刃物も測定方法も変わるため |
| REF(参考寸法) | 合否判定の基準に使わない | 二重の検査を避ける |
| □、板厚 t | 数値の直前に記号を置く | 断面形状を現場に推測させない |
この表は、プロジェクトに適用される規格を置き換えるものではありません。「補助寸法記号」を、製造・組立・検査のときに答えられる問いへ変えるためのものです。
実際の場面
球面にSR10ではなくR10と記すと、加工者はそれを一つの平面内の円弧だと受け取ることがあります。組み付けを左右する特徴では、記号は、その形状を証明できる投影図か断面図と必ず一緒に置かなければなりません。
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