機械設計 #89:部品への刻印 — 製品を弱めずに識別する
部品刻印は境界が変わっても明確で、製造、検索、検査、保全ができなければならない。
名称より先に機能
名称、刻印、材料、注記を決める前に、機能、入力、期待結果、故障症状、合否限界、測定方法を書く。全ての値に担当を付ける。
基本チェック
- 識別の必要性と、刻印の位置: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- 方法、深さ、幅、応力への影響: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- 材料、熱処理、腐食への影響: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- 皮膜や洗浄の後も読める符号: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- 検査、照合、データとの結び付け: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
- 補修、交換、記録の保存: 値、出典、方法、担当、合否の証拠を記録する。
| 故障モード | 症状 | 確認 |
|---|
| 識別が曖昧 | 部品・記録が違う | 実ロットを検索・監査 |
| 接点を省略 | 購入・組立・保全で誤り | 実工程を確認 |
| 文書が不一致 | 名称は正しいが改訂違い | 全資料を基準化 |
方法は現場の設備ではなく、部品が受けるものに合わせて選びます
刻印の方法はそれぞれ、部品へ違う影響を残します。繰返し荷重を受ける部品や、すでに焼入れした部品では、 その影響は小さな話ではありません。
| 方法 | 部品への影響 | 向く場面 |
|---|
| たがねによる打刻 | 局部的な塑性変形。切欠きと残留応力を作る | 粗い部品、熱処理前、疲労を受けない部品 |
| 機械式の彫刻 | 材料を削り、深さのある溝を残す | 厚い部品、応力の高くない部分 |
| レーザ刻印 | 熱影響は浅く、機械的な力はほとんどない | 大部分の機械部品。熱処理済みの部品も含む |
| 電解による刻印 | 機械的な力がなく、熱の影響も小さい | 薄い部品、疲労を受ける部品、焼入れした部品 |
| 印刷やラベル | 部品への影響はないが、耐久性がない | 製作中の一時的な識別 |
ここから二つの原則が出ます。
- 繰返し荷重を受ける部品では、切欠きを作る方法を避けます。 打刻の跡は疲労き裂の典型的な起点です。
同じ仕組みは 機械設計 #55 — 板ばね で説明しています。
- 焼入れした部品には打刻しません。 硬くもろい表面は、刻印の位置でそのまま割れることがあります。
レーザ刻印か電解による刻印が一般的な代替です。
位置:三つの禁止区域と、忘れられがちな一つの要求
刻印してはいけない区域が三つあります。
- 応力の高い部分 — 段付きの付け根、溝底、穴の近く、繰返し曲げを受ける部分。
- 機能面 — 合わせ面、密封面、摺動面、測定基準面。密封面の刻印は漏れの経路になり、基準面の刻印は
測定を狂わせます。
- 後で加工する部分 — 刻んでから削り落とすのは二度手間であり、印も失われます。
忘れられがちな要求は、組み付けた状態で読めることです。機構の奥に入る部品で刻印が内側を向いてい れば、保全のときに外さなければ読めません。つまりその刻印は、生まれた目的を果たしていません。
何を刻むか:少なく耐久性があるほうが、多くて直しが要るより優れています
刻む内容は、部品の寿命の中で変わらないものに限ります。
- 案件の採番規則による部品番号。
- 追跡が必要な部品では、ロットまたは日付の情報。
- ほぼ対称で逆に付けやすい部品では、向きまたは面の区別。
一方、図面の改訂記号は部品に刻まないほうがよいです。改訂は時間とともに変わるため、状態の良い部品 が古い記号を持っていると、在庫の確認で不要な議論を生みます。改訂の管理は記録の仕事であり、その方法は 機械設計 #107 — 図面の改訂表 にあります。
一つはっきりした規則があります。社外の人に向けていない内部情報を部品へ刻まないことです。顧客名、 社内の案件記号、社内文書の名称などです。部品は機械とともに別の場所へ渡り、案件より長く残ります。
表面処理の前か後か
この順序は結果を変えるため、図面で決めます。
- 処理の前に刻むと、皮膜の下で印が長持ちしますが、皮膜で印がぼやけ、明暗の差が小さくなります。
- 処理の後に刻むと印は鮮明ですが、その位置の皮膜を壊します。防食が必要な部品では、そこがさびの起
点になります。
めっきや陽極酸化で防食が必要な部品では、先に刻んでから処理するほうが安全なことが多く、図面には処理後 の読み取りやすさの要求を書きます。材料名と部品番号を一貫させる方法は 機械設計 #86 — 標準的な材料名 にあります。
刻印は付け方と同じくらい、位置が重要です
刻印は小さな切り欠きであり、表面のあらゆる切り欠きは応力集中源になります。繰り返し荷重を受ける 部品では、位置を誤った刻印が疲労き裂の起点になります。
刻印を置く原則は次のとおりです。
- 高応力域を避ける:すみ肉R、ねじの谷、穴の縁、断面が急変する箇所には刻印しません。平らで
荷重の小さい面に打ちます。
- 機能面を外す:はめあい面、シール面、軸受の軌道面には刻印しません。
- 感度の低い向きに沿わせる:荷重域の近くに刻まざるを得ないときは、主応力の方向に沿って刻み、
横切らせません。
| 方法 | 標準的な深さ | 弱体化のリスク |
|---|
| レーザー(焼き入れ発色・材料除去なし) | ほぼ0(表面の変色) | 非常に低い — 疲労部品に向く |
| 刻印(冷間打刻) | 0.1〜0.3 mm + 周囲の加工硬化 | 中 — 残留応力を残す |
| フライス/CNC彫刻 | 0.2〜0.5 mm | 中 — 浅い溝と同じ働き |
| ドットピーン | 0.05〜0.2 mm | 低〜中 |
表面処理の前に刻むか、後に刻むか
順序が耐久性と可読性の両方を決めます。
- めっき・塗装の前:深い刻印は被膜に一部埋まってかすみます。一方、めっき後に刻むと保護層を
破って地金が露出し、その部分から錆びます。めっき部品には、被膜を破らないレーザー焼き入れ刻印を めっき後に使います。
- 熱処理の前:焼き入れ後の硬い部品への打刻は割れの恐れがあるため、焼き入れ前に打刻するか、
焼き入れ後はレーザーを使います。
図面には刻印方法と位置を明記し、「番号を刻む」という漠然とした指示を現場任せにしません。 現場が打ちやすい場所が、部品にとって最も危険な場所であることがあります。
MINATA発行チェック
- [ ] 機能、識別、境界、故障症状を記載した。
- [ ] 責任、接点、誤操作防止が明確である。
- [ ] 六項目に証拠と合否限界がある。
- [ ] 製造、購買、検査、保全を実機で試した。
- [ ] 改訂、サプライヤー、データ、履歴が一致する。
良い設計は、製造、運転、保全、変更を通過する前提の連鎖である。部品刻印では、識別と機能が信頼できる証拠を残すことがMINATAの基準である。
よくある質問
焼入れした部品に打刻してよいですか
避けてください。硬くもろい表面は刻印の位置で割れやすく、その割れが起点として残ります。レーザ刻印か電 解による刻印を使います。
刻印は部品の寿命を縮めますか
応力の高い部分に置いた場合や、切欠きを作る方法を使った場合は縮めます。繰返し荷重を受ける部品では、応 力の低い部分に置き、切欠きを作らない方法を優先します。
図面の改訂記号を部品に刻んでよいですか
多くの場合は刻みません。改訂は変わり、部品は変わらないため、状態の良い部品が古い記号を持っていると在 庫の確認で議論になります。変わらないものだけを刻みます。部品番号とロットの追跡情報です。
めっきや陽極酸化の前と後、どちらで刻みますか
防食が必要な部品では、先に刻んでから処理するほうが安全です。後から刻むとその位置の皮膜を壊すためです。 代わりに、皮膜で明暗の差が下がるため、処理後の読み取りやすさの要求を図面に書きます。
刻印はどの面に置きますか
機械に組み付けた状態で読める面であり、機能面でなく、応力の高い部分でなく、後で加工する部分でもない面 です。四つの条件がすべて衝突するなら、構造を見直すか、別の刻印方法を選ぶ合図です。
よくある質問(続き)
荷重のかかる軸に番号を打刻しても問題ありませんか。
リスクがあります。打刻は溝と残留応力を残し、疲労を受ける回転軸ではそこがき裂の起点になりがちです。 やむを得ず刻むなら、レーザー焼き入れか浅いドットピーンを使い、最も荷重の小さい域に置きます。
めっきの前と後、どちらで刻みますか。
防錆めっき部品では、被膜を破らないレーザー焼き入れ刻印をめっき後に行います。めっき前の打刻は 埋まってかすみ、めっき後の打刻は地金を露出させてその箇所から錆びます。
刻印位置は図面に記載すべきですか。
荷重部品では記載すべきです。許容する面と領域を明記し、現場がすみ肉Rや穴の縁——打ちやすいが最も 応力に敏感な場所——に置かないようにします。
まとめ
部品への刻印は、書類を整えるための手続きではない。設計意図を、繰り返し製作でき、組み立てられ、測定できる結果へ変えるための手段である。良い図面は、設計者がそばで説明しなくても伝わる。情報の構成そのものがその役割を果たさなければならない。
現場のための早見表
刻印の仕方は、状況・方式・目的を対応づけると選びやすくなります。
| 状況 | 方式・制御の仕方 | 目的 |
|---|
| レーザー刻印 | 浅く、鮮明に、機械的な力をかけない | 熱影響を抑える |
| 打刻 | 丈夫だが局所的な変形を伴う | 疲労を受ける部位を避ける |
| 機械彫刻 | 自由度が高く、深さが出る | 断面を弱めないようにする |
実際の場面
追跡用のコードは、応力の集中する角や、密封する面には置きません。小さな部品では、情報を全部彫ろうとして文字が小さく読みにくくなるより、データへつながる短いコードを優先します。
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